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「聖衣剥奪」

エル・グレコ (1577-79年)

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 今、まさに十字架にかけられようとしているキリストの、他の者たちとは全く趣を異にした目の美しさ、神々しさが印象的です。
 右下では、これからキリストを処刑するための十字架が準備されつつあり、左下の三人のマリア・・・手前からマグダラのマリア、聖母、小ヤコブの母も、この緊迫した光景を、ただ見守るばかりです。この三人が画面に描きこまれているのを見ると、聖ボナヴェントーラ著『キリスト受難黙想』(13世紀後半)を典拠にしたものだろうと言われていますが、完成後、聖書に三人のマリアは登場しないことや群衆の位置がキリストの頭よりも高い所にあるからという理由で、描き直しを求められたということです。しかし、グレコはそんな屈辱には屈しなかったのです。

 グレコと言えば、今まで、熱烈なカトリック信仰の画家か、対抗宗教改革期の宗教都市トレドにおける神秘主義者と理解されてきました。でも、実は自らが美しいと思うものを美しく描くことに忠実な画家・・・というのが本当のところではないかという気がします。彼に信仰はあるにしても、それが美しいものへの衝動を拘束することはなく、むしろ彼の内部で、美しいものと聖なるものが矛盾なく一致しているのだという気がします。
 「聖衣剥奪」の中で、イエスは血と炎のような真紅の象徴的な色彩で他を圧倒し、周囲の喧騒や雑踏とは無関係に、静謐で異次元の空間ともいうべき所に存在するようです。今にもこのまま上昇しそうなイエスの隣りに、イエスの衣の色が反映したものか、甲冑が赤く染まった兵士が立っていますが、その沈鬱な面もちは、他のいやしげな人々とは異質な雰囲気で、後に改宗するロンギヌスではないかと言われています。右手を胸に当て、諦観に到達したイエスと兵士の対比は、聖衣を奪い取ろうとする者たちとの対比とともに強い印象を与えています。

 人物を積み重ねての浅い空間はマニエリスムの一般的特徴ですが、キリストの垂直性はビザンティン絵画の伝統が感じられ、中世的要素とマニエリスム的要素の結合が、独創的な傑作につながった作品と言われています。

★★★★★★★
トレド大聖堂蔵



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