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「ある枢機卿の肖像」

エル・グレコ (1600年ころ)

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 宗教画家エル・グレコには、肖像画家というもう一つの顔があります。この作品は、そんなグレコの資質と天分を十二分に伝えてくれる傑作です。

 大聖堂内の一室と思われる、壁にみごとな織物が貼り付けられた部屋に腰を下ろした人物・・・帽子と僧衣の真紅が画面いっぱいに広がって、圧倒的です。額のしわ一本一本にまでいたる顔の精緻な描写や指先の細かい動きの表現など、モデルの内面にまで鋭く迫って洞察されています。また、繊細な白いレースの筆致も美しく、みごとに装った彼の威厳や外貌のリアルさがちょっと恐いくらい丁寧に描き込まれています。
 モデルは、異端審問所長官で、1601年から9年までセビーリャの大司教を務めた宗教界の大物、ニーニョ・デ・ゲバラとされてきました。しかし、1982年の大回顧展以降、1599年から1618年に亡くなるまでトレド大司教を務めたベルナルド・デ・サンドーバル・イ・ロハスではないかという新説が提起されています。ロハスは教会の熱烈な改革者で、学芸擁護者としても知られていた人物です。
 そう言われてみれば、この顔からは、過酷で凶暴なスペイン異端審問所長官・・・という感じは伝わってきません。冷酷さや無慈悲さとは縁遠い感じもします。

 ともあれ、モデルを厳しく見つめ、その内面に迫って、枢機卿の持つ威厳と知性を鮮烈に描き出している秀作です。宗教画とは対照的に、肖像に対する客観的態度は、グレコの生涯貫いた姿勢でした。
 枢機卿の白い指と同じ色をした足元の白い紙には、グレコのフルネームのサインを見てとることができます。

★★★★★★★
ニューヨーク、メトロポリタン美術館蔵



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