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「聖マルティヌスと乞食」

エル・グレコ (1597-99年)

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 サン・ホセ礼拝堂の北の祭壇を飾る祭壇画であり、とりわけ名作の誉れの高いものです。
 エル・グレコらしい、細長くデフォルメされた画面の中で、人物も馬も、実に穏やかな眼をしています。美しいと思うものを美しく描くことに徹した、グレコの心がそのまま絵画となったようで、清らかな空気が感じられる作品だと思います。

 甲冑を身につけた馬上の聖マルティヌスは4世紀後半の聖人で、若いときにコンスタンティヌス帝のローマ軍に仕えました。ある冬の寒い日に、北仏アミアンの城門を出たところで裸の乞食に出会い、軍用のマントを剣で半分に切り裂いて与えたと言われており、その様子を描いたものだと思われます。
 慈悲と貞節、信仰の人、聖マルティヌスはトレド特産の金の象眼細工がある鋼鉄の鎧に身を固め、アラビア種のみごとな白馬にまたがっています。乞食も、圧倒的なスケールで描かれ、決して卑屈さや卑しさは感じさせません。画面の中のすべてが堂々としており、殊に聖マルティヌスの穏やかで慈悲深い表現は印象的です。
 また、馬の下方にはアルカンタラ橋あたりのトレド風景が望まれ、トレドに対するグレコの愛着を垣間見ることもできます。トレドは、グレコにとって永遠不滅のシンボルであったのでしょう。

 イベリア半島の中枢に位置し、古来さまざまな民族と文明が行き交い、都としても栄えたトレドは、スペイン人の魂、スペインの縮図とも言える所です。クレタ島からイタリア、その後移り住んだトレドという地は、このギリシャ人画家グレコに活躍の場を与え、その天分を十分に開花させてくれたのです。

★★★★★★★
ワシントン、ナショナルギャラリー蔵



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