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「聖ペテロの涙」

エル・グレコ (1580-85年ころ)

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 遠く雷鳴が聞こえてきそうな空の下、ペテロはキリストを裏切り、三度否認したことを悔いて、天を仰ぎ涙を流しています。
 グレコ独特の、白眼の部分のウルウルした光がペテロの心情をよく表していて、彼をこの上なく高貴な存在として輝かせています。ペテロの背後には、蔦がからまる洞窟が描かれていますが、蔦は「不滅の愛」のシンボルとされていますから、すでにキリストが悔い悩むペテロを赦し、愛をもって包もうとしているのが感じられます。

 当時、カトリック教会は「悔悛」をテーマとした作品を称揚していましたから、宗教画家だったグレコはマグダラのマリアの悔悛とともに、この聖ペテロをテーマとして礼拝用にいくつも描いています。その中で、この作品はごく初期のもので、グレコ特有のデフォルメもまだ自然な段階にあり、非常に親しみ易い作品の一つと言えると思います。それでも、どこか地上的要素が姿を消し、超自然的な雰囲気が漂ってしまうところは、やはりグレコ・・・と思ってしまうのです。
 できれば自分もゆらゆら揺れて天に昇ってしまいたい、と願うように両手を組むペテロの左手奥には、見えにくいのですが、小さくマグダラのマリアが描かれています。これは、磔刑の三日後、マグダラのマリアが香油を持ってイエスの棺を訪れたことを暗示しています。すでにその時、主は復活した後で、石棺に白い天使が座っていました。これをペテロに知らせようとするマグダラのマリアの姿が描き込まれているのです。
 流れるようなタッチの中に劇的な雰囲気が漂い始めた時期の、グレコらしい作品です。

★★★★★★★
ワシントン、 フィリップス・コレクション蔵



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