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「聖三位一体」

エル・グレコ (1569-79年)

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 この作品は、トレドの由緒あるシトー会女子修道院の付属聖堂にある祭壇画の9点からなる作品群のうちの1点です。
この聖堂は、ポルトガル皇女イサベルの元女官で尼僧マリア・デ・シルバの霊を祀るために、彼女の遺産で建造された墓廟礼拝堂なのです。そのため、9点の作品はすべて創造者の死にちなみ、「救済の道」を示す主題が選ばれています。

 その中の1点である「聖三位一体」は、本当にめずらしいことに、神様のお顔をじっくりと拝見することができるのです。十字架上で人類の罪を償い、永遠のもとにもどった神の子イエスの傷つき、力尽きた身体を、その父なる神が膝の上に抱きかかえています。悲しそうな、また心を痛めた表情は聖母のような慈愛に満ちて、わが子を苦しめてしまった自らを責めてでもいるかのように見えます。そして周囲は黄金色にパーッと輝いて光に包まれる中、精霊の鳩の下のたくさんの天使たちが左右から寄り添い、悲しみの表情を浮かべています。
 「わが子よ、もう安らかになった」
と声をかけている様子の神様がすっかりオトーサンしてしまっているのも驚きですが、この作品の色彩の美しさにも目を奪われてしまいます。

 この作品でグレコは、ヴェネツェア派の豊潤な寒色系の色彩を採用していると言われています。父なる神の黄色とブルーの衣装、またその左右の天使たちの赤に近いピンクやグリーン、紫の衣装のみずみずしさは、他のグレコの作品にもなかなか見当たりません。神様の頭上の不思議な形をした冠の淡いピンク色も美しく、これは本当に悲痛なシーンであるにもかかわらず、鮮やかな明るさにあふれているのです。
 イエスがすでに雲の上に引き上げられているのは、「最後の審判」により悪しき人々は地上から一掃され、善き人々が天上に召し上げられることの暗示であると思われます。

 このように美しいグレコの代表作は、しかし、薄暗い聖堂や修道院の祭壇の奥深くに飾られていたこともあって、長く人々の記憶から忘れ去られていました。でも、今こうしてその色彩の美しさを再認識させられると、そして、この鮮やかさが長い間闇に封印されていたことを思うと、何やら秘密めいたときめきさえ感じてしまうのです。

★★★★★★★
マドリード、プラド美術館蔵



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