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「糸杉と麦畑」

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ (1889年6月)

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 明るいはずの風景画全体がうねりの曲線で彩られ、何かとても不安な気持ちにさせます。麦畑と糸杉はゴッホが好んで描いたモチーフですが、この麦畑はアルルの光をいっぱいに浴びた生命感あふれる麦畑とは全然違います。ざわざわと不吉な感じが漂い、どこか絶望的なものを感じさせます。

 アルル時代のゴッホを象徴するのが「ひまわり」ならば、サン・レミ時代の象徴は「糸杉」だと言われています。ゴッホ自身はその黒々としたシルエットに「悪の影」を見ると言い、そして「ひまわりに等しく、同時にまたこれに対立するもの」とも語っています。
 今日でも、南フランスやイタリアでは、糸杉はしばしば墓場を囲むように立っていますが、ゴッホはこれを充分に意識して描いていたのだと思います。彼の「糸杉」は天を焼く黒い炎のようにも見えますし、また、天に向かってかかる巨大な梯子のようにも見えます。
 ここに、彼の死への欲求、そして反対に死への怖れがひそんでいるような気がします。「糸杉」と「死」は、ゴッホにとりついて離れないものだったのです。

 ゴッホは言います。
「糸杉はプロヴァンスの典型的な眺めだ。君はそこに何かを感じて言うだろう。『なんて暗い色彩だろう』と。自然を前にして僕をとらえる感動は僕に意識を失わせる。それでも、ここを去る前に必ずもう一度、糸杉にアタックすることだろう。」

★★★★★★★
ロンドン、 ナショナル・ギャラリー蔵



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