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「フォリー・ベルジェールの酒場」

エドワール・マネ (1882年)

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 ナイトクラブのカウンターで、大胆に胸の開いた黒の衣装でポーズをとるのは、実際にバーの女給だったシュゾンという女性です。美しいサラサラの金髪と、首を飾るチョーカーとブレスレットの色がお揃いで、胸に飾った花の色をキュッと引き立てています。

 この作品は、1882年のサロンで絶賛されたものです。マネ最後の傑作であり、みごとな筆使いとすばらしい色彩感覚にあふれています。
 その一つのあらわれが黒の使い方です。印象派の画家たちはルノワール以外、自分たちの絵をあざやかな色彩と光で満たそうとするために、パレットから黒を追放してしまいました。でも、マネは、黒を明るい色調と巧みに対比させて黒自体に命と輝きをあたえることのできた画家なのです。
 モデルのシュゾンの衣装に使われている黒も、カウンターに置かれた鮮やかなオレンジや花やシャンパンの瓶の色でみごとに引き立て、生き生きと輝かせています。
 黒の魔術師マネ!・・・彼のセンスの良さは最後まで変わらなかったのだな、と嬉しくなってしまいます。

 しかし、この絵はよく見ると、とても奇妙で不思議な作品です。
 彼女の後ろに広がる景色は、彼女の目の前にある店内の風景が鏡に映ったものなわけですが、そのわりには彼女の後ろ姿は右に寄りすぎています。しかも、鏡の中の彼女の目の前には、現実には存在しないシルクハットの男性が立っているのです。ここに、幻の世界があります。彼はシュゾンに、いったい何を語りかけているのでしょうか。
 この男性は、おそらくマネ自身であろうと言われていますが、この絵を制作しているとき、マネは病気のためにすでに手足が不自由になっていて、制作にも大変な時間がかかったといいます。彼は苦しみながら、遺書のように、自分自身を作品の中に残し、このあと間もなく命を落とします。それは、義妹のベルト・モリゾが「なんてひどい死なの!」と悲しみの声を上げたほど、恐ろしい形相の死だったということです。まだ51歳でした。

★★★★★★★
ロンドン、 コートールド美術研究所蔵



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