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「菫の花束をつけたベルト・モリゾ」

エドワール・マネ (1872年)

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 マネが描いた女性像は120点以上と言われていますが、この作品は、その中でも最も忘れがたい一点に違いありません。大きな瞳でこちらを見返す女性の、なんと個性的で美しいことでしょう。彼女が見つめるのは、もちろん画面のこちら側の私たちではありません。これを描いている画家自身です。
 モデルの女性はベルト・モリゾといい、第4回を除いた全ての印象派展に参加し、印象派の中心メンバーの一人となった女流画家なのです。マネは、ベルトが 27歳のときに出会い、幾度となく彼女をモデルにした美しい作品を生み出しています。しかし、この作品の2年後、ベルトはマネの弟ウジェーヌと結婚し、それ以後、彼女を描くことは二度とありませんでした。
 まっすぐにこちらを見つめるベルトは、ちょっとだけ何かを語りかけているようです。画家とモデルは、目で会話していたのでしょうか。とても親密なニュアンスが、ベルトの表情から読み取れるような気がします。二人だけにしかわからない世界までも、画家マネは描いてしまっているのかもしれません。

 モリゾの姪と結婚した詩人のポール・ヴァレリーはこの作品を絶賛し、さらに、黒の諧調の素晴らしさを称えています。確かに、黒を巧みに使ったマネの作品の中でも、彼女の姿は忘れがたいものです。流れるような美しい筆致で、これほど優雅に表現された黒は見当たらないような気がします。
 また、帽子の形も非常に独特で大胆です。女性の持つ小物にも細かく気を配ったマネは、ベルトの美しさを最大限に引き出すために、この帽子を選んだのでしょう。ベルトのような強い個性を持った女性だからこそ、ふさわしい帽子だったに違いありません。
 さらにマネは、向かって左側から当たる光によって彼女の顔に影をつけ、とても立体的で、ニュアンスに富んだ表情をつくり上げています。どちらかというと、肖像画を平板に表現することの多いマネには珍しいことで、このあたりにも作品への思い入れの強さが伝わってくるようです。

 ところで、同じ年、マネは「菫の花束」という小品をモリゾに贈っています。ここに描かれたスミレの花束は、もちろんモリゾが胸元につけているスミレを表し、赤い扇子は「バルコニー」の中でモリゾが手にしていたのと同じものです。そして、白い紙の部分には、「モリゾ嬢へ――、E・マネ」と書かれているのです。

★★★★★★★
パリ、オルセー美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫著  小学館 (2004-12出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)
  



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