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「シャンペン・グラスのバラ」

エドワール・マネ (1882年)

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 マネの描く花たちは何と華やかで、それでいて端正なのでしょうか。透き通ったシャンペン・グラスの中の水や茎までもが的確に、しかも素早い筆致で描写され、小さいけれど宝石よりも美しい、喜びに満ちた世界を見せてくれるのです。

 晩年のマネは、手術の失敗が原因で神経的な運動失調症になっていたと言われています。その療養のため、パリを離れなければならなかった彼は、死までに残された数カ月間、友人たちから送られた花や庭に咲く花を描いて過ごしました。それは小品ばかりでしたが、どれもマネが本来持っていた美への感動、愛情に満ちた珠玉の作品ばかりだったのです。
 意欲的に大作を描き、サロンで評価されることにこだわり続けたマネでしたが、この「シャンペン・グラスのバラ」は31×24cmと小ぶりながら、彼の本来の資質の美しさが実感できる作品となっています。ここには死への恐怖や体の痛み、苦しみなどは一切ありません。画家は、まるで幼な子のように純粋な目で対象を見つめ、喜びをもって色を置き、朝露が画面のこちらにまで飛んできそうなみずみずしさを、彼の感動そのままに描き出しています。それは、マネが愛してやまなかったパリの華やかな香りを残しながらも、もっと精神的で、解放されたもののようにも感じられるのです。

 マネの友人であった詩人、思想家たちはみな、例外なく彼に長い文章を捧げています。ステファン・マラルメも、
「カフェ・トルトンでは簡潔で皮肉屋で上品な紳士なのに、アトリエでは熱狂が彼をおそう。まるで今まで描いたことがなかったかのように、当惑しながらも真っ白なカンヴァスに飛びかかる」
と書いています。マネという人間の魅力は一言で語れないほどに多様で奥深かったのでしょう、多くの友人たちの心をとらえて、最後まで離すことはなかったようです。
 マネは1882年に、バラを他にも3点、シャクヤクを1点描いています。彼の生き生きとした好奇心は最晩年になっても衰えることなく、ますます活動的に無邪気に対象をとらえ、それを円熟の技術でこの上なく美しく、可憐に表現し続けたのです。

★★★★★★★
グラスゴー美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎マラルメの詩学―抒情と抽象をめぐる近現代の芸術家たち
       宗像衣子著  勁草書房 (1999-03-30出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)



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