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「花を摘む女」

オーギュスト・ルノワール (1872年)

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 祈るような静謐な作品です。画面の隅々にまで満ちた光は、摘み取った花を胸に抱く女性を柔らかく包み込んでいます。彼女はこのまま背景に溶けていってしまいそうで、その顔立ちや表情もはっきりとは見分けることができません。
 布地をたっぷり使ったドレスやエレガントな帽子、足元のパラソルを見ると、彼女が豊かな都市生活者であることがわかります。画面の向かって左上には近代的な橋や建物が見えていることから、ここがパリの近郊であることがわかるのです。彼女はパリの住人なのかもしれません。

 19世紀に始まった大改造によって、パリは風通しの良い清潔な街に変わりました。生まれ変わった明るいパリは、印象派の画家たちをアトリエの外へ、戸外へと向かわせ、光り輝く新しいモティーフを提供したのです。ルノワールが描いたこの女性は特定の誰かなのではなく、画家の内にある光のミューズなのかもしれません。

 オーギュスト・ルノワール(1841-1919年)は印象派の代表的な画家の一人でした。しかし、その後の長い画業の中で彼の画風にも変遷があり、馴染み深い肖像画や裸婦像からは印象派の特徴を感じ取ることは困難かもしれません。しかし、初期のルノワール作品にはこんなにも自然の光にあふれ、風が草花を揺らし、全てがきらめき、そよぎ続けるような世界を表現したものもあったのです。
 しかし、風景の中心に人物を据えたのがルノワールらしさだという気がします。ルノワールは暖かい陽光、草いきれのする草原、そして何より人間の体温の感覚を愛したのです。後に、パトロンたちの要請で多くの肖像画を描くようになったのも、決して生活のためばかりではなかったと思います。人当たりのよい陽気な彼は社交界の人々に愛され、ルノワール自身も彼らとの交流を楽しみ、彼らを描くことに喜びを感じていたに違いありません。
 自然を愛し、人間を愛し、世界に満ちる光を愛したルノワールは、草原の中で祈るように花束を抱える女性を、彼自身も感謝と幸福感に満ちて描いたのではないかという気がします。

★★★★★★★
ウィリアムズタウン、 クラーク美術館蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫著  小学館 (2004-12出版)
  ◎ルノワール
        ウォルター・パッチ著  美術出版社 (1991-02-10出版)
  ◎ルノワール―その芸術と生涯
        F・フォスカ著  美術公論社 (1986-09-10出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画の巨匠4 ルノワール
         賀川恭子著   小学館 (2006-06出版)



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