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「Study of a Woman’s Head」

ジャン・アントワーヌ・バトー (1710年ころ)

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 女性の頭部を描いた、簡潔で余分な線のない見事なデッサンです。それでいながら、やや気色ばんだような表情や香り立つような美しさ、華やかさは、やはりヴァトー…と言うしかありません。

 ヴァトーは天性のデッサン家であったと言われています。36歳で夭折するまでの短い間に1000点近いデッサンを描いたと言われており、その制作期間の短さを思うと驚異的としか言いようのない数字です。そして、そのほとんどはごく単純に、赤チョーク(サンギーヌ)と黒チョーク(ピエール・ノワール)で描かれ、ときどき白でハイライトを入れる程度のものでした。用紙はクリーム色や淡い青など、少し色のあるものが好きだったようで、この作品も、画面の奥から、やさしい柔らかさがごく自然に伝わってくるクリーム色で制作されています。ただのデッサンでありながら、この安定した完成度の高さには、思わず時間を忘れて見入ってしまいます。
 ヴァトーは小さい頃からデッサンが巧みでした。暇があると町の広場に行っては香具師やぺてん師の軽妙なインチキぶりを描いて楽しんでいたと言われ、長じてからも、デッサンを始めるといつまでもやめなかったと言われています。そばにいた友人たちはヴァトーを評して、
「陰気で、メランコリックで、身持ちは堅固で心はまっすぐだった。そして無口で、デッサンをしていなければ考えていることが多かった」
と語っているように、ヴァトーとデッサンは生涯、切っても切れない縁に繋がれているようでした。

 しかし、相当な世評をかちとるようになってからも、ヴァトーは精神上の不安定から転宅を繰り返しました。そして、彼の私生活はその性格のためか、あまりにも謎で、それはいまだに神秘のヴェールに包まれたままなのです。ヴァトーの友人で、その死にも立ち会ったジェルサンは、彼の性格について、
「落ち着きがなく移り気。気ままで何ものにもとらわれないが、思慮に欠けたり、身勝手であるということはない。短気で、控え目で慎重。心やさしいが気難しく、自己および他者についていつも不満を抱いている。言葉は少ないが、なすべき判断は適切にくだす」
と述べています。わかったような、わからないような….ヴァトーはやはり謎の人なのです。

 生涯、家や妻を持たず、世俗的成功にも、自分の作品にさえ無関心だったヴァトーは、現在の不動のこの人気に、内心、ため息をついているのかも知れません。

★★★★★★★
アムステルダム国立美術館蔵



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