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「ヴェネツィアの宴」

ジャン・アントワーヌ・バトー (1717-18年)

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 ヴァトーの作品から漂う憂愁は、その色遣いからきているのかもしれません。やさしい緑の濃淡、銀灰色、明暗使い分けられた茶色などが、繊細な心情表現を可能にしています。昔日のヴェルサイユ宮庭園における華やかな社交を懐かしむ人々にとって、ヴァトーの描き出す世界ほど心地よい、魅力に富んだものはなかったに違いありません。

 フェート・ギャラント(雅宴画)というジャンルは、アントワーヌ・ヴァトー(1684-1721年)によってもたらされました。それは、17世紀の古典主義にはあり得ない全く新しいジャンルの絵画で、人間の手が入った自然の中で流行の服に身を包んだ男女が芝居がかった宴を催し、社交を楽しむ、といったものでした。
 しかし、一言でそんなふうに説明してしまったのでは、ヴァトーの志とはちょっと違うかもしれません。
 ベルギー国境に近いフランス北部のヴァランシエンヌ生まれのヴァトーにとって、フランドル絵画はとても身近なものでした。彼は生涯にわたって、ルーベンスに強い影響を受け、特に「愛の園」に深く傾倒していたといいます。フェート・ギャラントのインスピレーションの源泉は、まさにこのルーベンス作品だったのでしょう。ヴァトーはどちらかというと、北方画家に近い感性を有していたと考えたほうが自然かもしれません。
 ただし、日常生活を描いた風俗画を得意とした北方の画家たちと違うのは、ヴァトーが自然の中に集う男女の群像の写実的表現よりも、むしろ夢の世界を描いた点にあったのです。同時代の貴族たちの夢想や追憶、そして彼らの生活と心情をヴァトーは細やかに感じ取り、彼らの求めるところを描きました。

 中央に立つ美しい女性は、当時人気のあった女優ではないかと言われています。ヴァトーは舞台上の芝居やオペラが大好きでした。彼女の張りのある絹のドレスは光を受けてみごとに輝き、彼女の存在自体を際立たせます。また、ダンスの相手をつとめようとしている紳士は、画家仲間のニコラス・ヴルーゲルと言われています。異国風の衣装は、彼の趣味なのでしょう。
 二人の主役の後ろには、半円形に男女が座り、それぞれがおしゃべりに興じています。
 その中で、一組だけ立ち上がっている男女は恋人同士なのでしょう。男性が指さす先には、彫刻とは思えないほど艶めいた裸体像が置かれています。今にも動き出しそうな彼女は、眼下で起ころうとしている出来事を、興味深げに見下ろしているように見えます。彫像には、しばしば寓意が込められますが、彼女は余りにもわかりやすい存在と言えます。
 さらに、女優の右側で扇を持つ女性は、そばに座っているパートナー以外の人物に興味津々のようです。扇は、秘密の恋人同士がしばしばサインを送るために使ったようですから、彼女はそれを上手に利用しているのかもしれません。
 そして、右隅のバグパイプの演奏家が、実はヴァトー自身ではないかと言われています。その意味は様々に解釈されていますが、画家は絵の中に自らを滑り込ませることで、この哀愁を帯びた世界を楽しんでいるのかもしれません。

 ところで、この絵のタイトルは、なぜ「ヴェネツィアの宴」なのでしょう。それは、フランス・ロココ時代を代表する画家ヴァトーが、若いころから憧れたヴェネツィア派絵画の自由な気分が、雅な宴にふさわしいと感じていたからなのかもしれません。また、1710年初演の、カンプラ作曲の同名オペラ・バレエが着想のヒントとも言われています。

★★★★★★★
スコットランド、 ナショナル・ギャラリー蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎名画への旅〈第15巻〉/18世紀〈1〉逸楽のロココ
        大野芳材・伊藤已令・下浜晶子・越川倫明著 鈴木杜幾子・森田義之編著  講談社 (1993-06-18出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎ヴァトー全作品
           中山公男編著  中央公論社 (1991-03-20出版)
 

 



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