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「真珠の首飾り」

ヤン・フェルメール(1662-65年)

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 真珠の首飾りをつけながら、うっとりと自分の姿に見入る女性は、どこか別世界の住人のようでもあります。現実のようで現実ではない、永遠に止まったままの宝石のような空間です。
 壁に掛けられた鏡が少し小さ過ぎるのではないかと心配になりますが、彼女は一向に気にする様子はありません。これから外出するところなのでしょうか、身づくろいの仕上げにつまみ上げた首飾りの真珠の粒の濃密な光沢は、この作品のタイトルにふさわしい美しさです。
 夢見るような目をした女性は、ほとんどこのまま室内空間に溶け入ってしまいそうで、首飾りとイヤリングの輝きだけが、生き生きと呼吸する存在のようにさえ見えてくるのです。

 ひっそりと室内にたたずむ女性像は、フェルメールの好んだ主題です。そして、この「真珠の首飾り」は、画家の絶頂期を飾る傑作と言われています。
 ここには、余分はものは何一つありません。シンプルでひそやかな夢のような空間であり、洗練の極みと言うほかありません。穏やかで微細な陽の光が奥の壁をまぶしいほどに照らし、真珠の首飾りを手にした女性の喜びを、そのまま反映しているようです。
 それにしても、ここでの光の表現は、それまで多用されてきた点描での光の粒ではありません。まるで画面の奥から透けてくるような、気品ある光なのです。工夫しながら少しずつ色を重ね、それでいて厚塗りではない滑らかな描法を、フェルメールは画家として出発してから、わずか10年足らずで自らのものにしたということになります。

 ところで、画中の女性が身に付けている黄色の上着は、とても印象的なデザインで、フェルメールの作品にはしばしば登場してきます。「手紙を書く女」「女と召使い」「リュートを調弦する女」「恋文」、さらには「ギターを弾く女」など、改めて数え上げると、その多さに驚きます。かなりのお気に入りだったか、思い入れの深い衣装だったのでしょう。彼の没後の財産目録には、「黄色のサテンのガウン、白の毛皮付き」と、しっかり書き込まれています。

★★★★★★★
ベルリン国立絵画館蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎フェルメール―大いなる世界は小さき室内に宿る
       小林頼子編著  六耀社 (2000-04-19出版)
  ◎フェルメールの世界―17世紀オランダ風俗画家の軌跡
       小林頼子著  日本放送出版協会 (1999-10-30出版)
  ◎フェルメール
       黒江光彦著  新潮美術文庫13 (1994-09-10出版)
  ◎芸術新潮 特集フェルメール ―あるオランダ画家の真実―
       小林頼子解説  新潮社 (2000年5月号)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)



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