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「手紙を書く女と召使い」

ヤン・フェルメール (1667年)

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 女主人と召使いと手紙・・・この三点セットはフェルメールお気に入りの題材だったようです。この作品のほかに、「女と召使い」「恋文」などがありますが、事情通の召使いに女主人が当惑する様子が見られる風俗画ふうの他の作品にくらべ、この「手紙を書く女と召使い」は静かな雰囲気を漂わせています。

 夕暮れらしい、窓際のほの暗い片隅にたたずんで、主人の手元を見ないように気を使いながら、召使いが手紙が書き上がるのを待っています。きっと、
「すぐに書くから、ちょっとそこで待っててちょうだい」
と言われたのでしょう。なんとなく居心地悪い様子で、わずかに残る光をたよりに、召使いは外を見やっています。女主人のほうは、一心に机に向かっていて、書き損じの便箋が床に落ちている様子からもわかるように、書くことだけに集中しています。二人の女性の別々な想いが、同じ窓から差し込む残り少ない夕方の光に包まれ、ゆっくりと流れる時の中に溶け込んでゆきます。同一の空間にいながら、それぞれが抱える緊張と孤独・・・。フェルメールの手にかかると、日常のこんな一瞬も、人間存在のドラマになってしまいます。

 最近の研究で、彼が描いた作品の中の部屋は、たった二つであったことがわかっています。あとは、家具などのちょっとしたセットで変化をつけているだけ、というシンプルさなのです。しかし、この制作行動半径の小ささにくらべ、フェルメールの内面の拡がり、想いの深さには驚きを感じます。  

★★★★★★★
ダブリン、 アイルランド国立美術館蔵



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