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「死の床のカミーユ・モネ」

クロード・モネ (1879年)

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 死の床の妻を描く……。それは、もしかすると、あまりにも罪な、人によっては醜悪な、と感じる行為なのかもしれません。
 画家の性(さが)なのでしょうか。モネは「かわいそうなカミーユ」とその名を呼びながら、おそらくは戸惑いつつ、死によって変貌していく妻の顔への強い興味を抑えることができませんでした。そして、絵筆をとらずにはいられなかったのです。

 1876年の第2回印象派展で「印象・日の出」を購入したエルネスト・オシュデは、モネの熱心なコレクターとなってくれました。ところが、オシュデの事業の失敗と破産によって、やっと生活にゆとりの出てきていたモネ家の家計は再び悪化してしまったのです。そして困窮の中、長年連れ添った妻カミーユが亡くなりました。1879年9月5日のことでした。
 実はそのころモネは、オシュデの妻アリスと親密な間柄となっていました。病に伏し、日々弱っていったカミーユがそのことを知っていたかどうかはわかりません。しかし、衰えゆく肉体とは対照的に、その精神と感受性はどんどん研ぎ澄まされていたかもしれません。モネの作品の多くでモデルをつとめながら、貧窮の中で最期の時を迎えなければならなかったカミーユでしたが、その顔は不思議なほど穏やかに感じられます。すべてを受けとめ、すべてを抱えたまま、黙ってカミーユが逝ってしまったという衝撃は、モネの人生の大きな節目ともなったようです。

 まるで、雪の中に埋もれていきそうなカミーユです。モネの素早い筆の動きは亡き妻を包み込むように、幾重にもヴェールを掛けてしまったようです。少し微笑んで見えるのは、モネの願いだったかもしれません。やさしく優しく、これ以上妻が苦痛を感じないようにと、モネは一心に色を重ね続けたに違いありません。

★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫著  小学館 (2004-12出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)

 



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