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「当世風結婚の第二場(結婚してまだ日も浅いというのに)」

ウィリアム・ホガース (1743年ごろ)

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 この、ゆるゆるした場面はどうしたことでしょうか。新婚ホヤホヤ、幸せいっぱいのはずの二人ですが、心はすでに離ればなれのようです。
 夫は朝から疲れきった様子で、不健康な横顔を見せています。昨夜は売春宿で夜遊びでもしてきたのでしょうか、上着のポケットから女性の帽子らしきものがのぞき、ペットの犬がしきりにその匂いを嗅いでいます。
 一方、妻は、朝食を前にして、そろそろ寝ようかという感じで伸びをしています。昨夜は一晩じゅう、ゲーム仲間とカードに興じていたらしく、一睡もしていないようです。
 また、画面の向かって左では、家計簿を抱えた執事が天を仰いでいます。耳にペンをはさみ、請求書の束をつかんで、もうお手上げですわ、といった表情で、どうやら、そろりそろりとこの財政破綻を来している家を出て行こうとしているようです。

 イギリス絵画の父といわれたウィリアム・ホガース(1697-1764年)は、まさに近代イギリス絵画の創始者であり、版画家としても知られていました。17歳のときに銀器彫刻師の徒弟となり、年季明けを待たずに彫版師として独立しています。そののち、アカデミーで絵画技法を学んだものの、絵に関しては実質的には独学だったといいます。
 ホガースの画家としての最初の成功は、「遊女一代」や「遊蕩一代」などの連作によるものでした。これらは人々の堕落する過程を追うことで、当時の風潮を鋭く諷刺するものだったため、大衆の心をつかんだのです。作品が版画化され、印刷されて広く流布したことも大きかったと思われます。人々は安価で作品を楽しむことができました。
 そして、油彩と版画がセットになることで最も人気となったのが、この「当世風の結婚」の6枚連作でした。この作品は、6枚のうちの2番目に当たるものです。ここでいう”当世風”とは、欲得ずくの打算や体面などで結婚を決めてしまう富裕層や貴族、社会のエリートたちの生き方、考え方のことを言うのでしょう。彼らに対する辛辣な諷刺とブラックユーモアは、人々の共感を得、ホガースの画家としての方向性も決定づけていったのです。
 こうした作品は、これまでのイギリス絵画には見られないものでしたから、ホガースの成功は、当時のヨーロッパ絵画に新生面を切り開くものだったと言えます。さらに、その物語的、演劇的な画面は、シェークスピアをはじめとする偉大な劇作家を生んだイギリスの風土に、とてもふさわしいものだったという気がします。

 ところで、ここはイタリアの絵画と柱で構成された古代風の室内ですが、時計の雰囲気は、チョット変ですが、ロココ風です。さらに、よく見ると、暖炉の上の絵は廃墟の中のキューピッドであり、胸像の鼻は欠けていて不能者を象徴しているようです。
 この違和感と趣味の悪さに、ホガースは偽りに満ちた結婚生活の不快さを凝縮したようです。諷刺画は、当時、道徳観や倫理観を人々に伝える重要なジャンルだったことがうかがえます。

★★★★★★★
ロンドン、ナショナル・ギャラリー 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋名画の読み方〈1〉
       パトリック・デ・リンク著、神原正明監修、内藤憲吾訳  (大阪)創元社 (2007-06-10出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)



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