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「サマリアの女とキリスト」

ベルナルド・ストロッツィ (1630-35年)

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 「私は、キリストと呼ばれるメシアが来られることは知っています。その方が来られるとき、私たちに一切のことを知らせてくださいます」。
そんな女の言葉を聞いて、イエスは言った。
「それは、あなたと話しているこの私である」。
 その瞬間の彼女の、人間的なまろやかな表情が印象的です。「あら、本当なの?」とでも問い返しているのでしょうか。待ち望んだメシアがあまりに自然に現れたので、喜びよりも戸惑いのほうがずっと大きく、こんなに複雑な表情になってしまったのでしょう。

 ユダヤからガリラヤへ行く途中、キリストはサマリアのスカルという町の外の、「ヤコブの井戸」と呼ばれている湧水のそばで休息をとりました。そして、そこへ水を汲みにやって来たサマリアの女に、
「水を飲ませてください」
と頼みました。使徒たちは、食べ物を買うために町に行っていたのです。サマリアの女は、
「ユダヤ人のあなたがサマリアの女の私に、どうして水を飲ませてほしいと頼むのですか?」
と驚きます。というのも、ユダヤ人が異教の女に声を掛けることは滅多にないことだったからです。そして、福音書記者ヨハネによれば、ユダヤ人とサマリア人との間には伝統的に敵意が存在しており、水を汲む器さえ共有することはなかったからなのです。そこでイエスは答えました。
「この水を飲む者は誰でもまた渇くであろう。しかし、私が与える水を飲む者は、いつまでも渇くことがない」。

 じつはこのサマリアの女は、ふしだらな生活を続けていた女性でした。そして、けっこう意地悪でもありました。旅の途中で水を所望するイエスを見て、内心、もっと疲れ、もっと渇けばいいと思ったのです。しかし、話をしていくうちに、彼女の過去と現在にわたる救い難い男性関係までも告白してしまうかたちになるのです。サマリアの女は、少しずつイエスを信じ始め、信仰に目覚めていきます。そして冒頭の会話になるのです。

 しかし、「サマリアの女」をテーマに、このように人間的な、生き生きとした表現ができるのは、17世紀ジェノヴァ派の代表的画家であったストロッツィ(1581-1644年)ならではなのかも知れません。彼は、故郷のジェノヴァで画家として修業をしたのち、17歳でカプチン修道会に入門しますが、 12年後には還俗するという面白い経歴の持ち主です。初期にはマニエリスム絵画の影響を感じさせる画風でしたが、ヴァン・ダイクやジェンティレスキらの影響を受け、柔らかな色調と優雅な人物像を描くようになっていきました。そして50歳を過ぎてヴェネツィアに移ってからは、ティツィアーノに代表される色彩豊かなヴェネツィア絵画黄金時代の作品を研究し、低迷期を迎えていたヴェネツィア派復活の基礎を築いたと言われています。

 背景に広がる空はヴェネツィアの空でしょうか。雲の流れが速い筆致で表現され、二人を包む親密な空気は、これが聖書の中のお話であることを忘れさせてしまいます。

★★★★★★★
Foundation Honnema, Heino 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)



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