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「聖母伝:受胎告知」

ピエトロ・カヴァリーニ (1291年)

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 輝くばかりの受胎告知です。モザイクの色調の微妙な変化が空間や人物にボリュームと生命感を与え、大天使と聖母の人間的な存在感を見る者に美しく訴えかけてきます。
 ここには、ただ温和しく運命を受け入れるだけの処女マリアと、神の御言葉を伝えるだけのガブリエルが表現されているわけではありません。これから始まろうとするルネサンスの萌芽が、鼓動をもって華麗に浮かび上がってきているのです。

 受胎告知は、神が聖母マリアを通してこの世にキリストとして現れるという神秘この上ない瞬間です。『ルカ福音書』によると、「おめでとう、恵まれた方。主があなたとともにおられる」という天使の言葉に、マリアは戸惑ったといいます。しかし、天使はそれを制し、生まれる子が神の子であることを説明するのです。
 これを踏まえてこのモザイク作品を見ると、作者はまさにルカ福音書の記述そのままのシーンを再現しているのがわかります。戸惑い、畏れるマリア、それを制するように手を差し伸べる大天使ガブリエル……。この次の瞬間には、マリアは静かに全てを受け入れます。「私は主のはしためです。お言葉どおり、この身になりますように」。

 笏を持ち、見事な翼を大きく広げた大天使は明らかに前にずんずん進みつつ、マリアに受胎の告知をおこなっています。片や、堅牢な玉座に座るマリアはまるで瞑想するような静けさです。こうした人間的で生き生きとした動きは聖なる場面ながら親しみ深く、13世紀盛期ゴシック美術の懐の深さを感じさせるものです。

 ピエトロ・カヴァリーニ(1250年ごろ~1330年ごろ)は、13世紀後半にローマで活躍した画家でした。壁画やモザイクを多く手がけ、生前から破格の評価と名声を得ていたことがわかっています。フィレンツェ派の開祖とされるチマブーエらとともに、イタリア美術の礎をつくりました。
 カヴァリーニの存在は、長く忘れ去られていました。それが1900年になって、代表作「最後の審判」の壁画断面が発見されたことによって、評価は劇的に回復したのです。以来、ローマ派の中心画家として、イタリア中世最大の画家ジョットと並ぶ革新性が論じられるようになりました。

★★★★★★★
ローマ、 サンタ・マリア・イン・トラステヴェレ聖堂 蔵

<このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社(1989-06出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001-02出版)
  ◎ルネサンス美術館
       石鍋真澄著  小学館(2008-07 出版)



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