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「パグのいる自画像」

ウィリアム・ホガース (1745年)

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 画面の中からこちらを見つめる瞳は、時代と祖国イギリスを見つめる瞳です。画家は、イタリア・ルネサンスやバロックの様式ではなく、粗野な風俗画でもない、イギリス独自の”今”を感じさせる生き生きとした絵画を模索したのです。

 近代イギリス絵画の父、ウィリアム・ホガース(1697-1764年)は、純国産の道徳的なイギリス絵画を初めて創造した画家と言われています。
 辛辣な諷刺とユーモアのきいた風俗画を得意とした彼は、こうしたジャンルを手掛けた理由として、
「これまでは小説家も画家も、歴史的な様式にかまけて、崇高とグロテスクの中間に位置するジャンルを全く見過ごしていたから」
と語っています。
 ”歴史的な様式”というのは、もちろんイタリアのルネサンスやバロック的な歴史画を意味しているのでしょう。当時、歴史画は崇高な絵画と見なされていました。そして、”グロテスク”というのは、おそらく低俗な大衆受けをねらった風俗画のことに違いありません。その両者の中間をいくというホガースの絵画は、品のあるイギリス的ユーモアに貫かれた風俗画と言えるのかもしれません。

 ところで、ホガースは市民的なイギリス絵画を得意とした画家であると同時に、優れた肖像画家でもありました。わかっているだけでも、110点を数えます。彼の描く人物たちは、まるで、今まさにそこに生きているような親近感を抱かせます。そこには、ホガースのすぐれた観察眼と的確な性格描写があったからなのです。
 この作品は、ホガース48歳の自画像です。面白いことに、画中画のように描かれており、しかも丸いキャンバスというのも不思議です。しかし、自信に満ちて聡明さを感じさせる眼差しは、画家の人柄を正確に伝えているように感じられます。そして、自画像の脇で頑固そうな表情を浮かべているのは、愛犬のトランプです。自画像に描き込むくらいですから、よほど愛情をかけていたのでしょう。主人の傍らに座るのは当然、という表情で収まっています。
 そして、画家のパレットが置かれており、優美な曲線が一本、S字カーブを描いています。これは、美の曲線なのです。その証拠に、「The LINE of BEAUTY And GRACE(美しく優美な線)」の書き込みがあります。ホガースは、世界で一番美しい形が、S字型だと信じていたのです。これを「ホガース曲線」といい、ホガース芸術のロココ的な側面をうかがわせるものとして知られています。ホガースが活躍した時代、ヨーロッパ大陸はロココ美術全盛の時代でもありました。

★★★★★★★
ロンドン、テイトギャラリー 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋名画の読み方〈1〉
       パトリック・デ・リンク著、神原正明監修、内藤憲吾訳  (大阪)創元社 (2007-06-10出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)



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