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「マルガリータ王女」(絶筆)

ディエゴ・ベラスケス  (1660年ごろ)

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 「姫様、大きくなられましたなぁ。じぃは、誇らしく思っておりますぞ」
と、巨匠ベラスケスが心中、言葉を掛けていたかどうかは分かりません。しかし、当時9歳の王女は、少女ながらすでに他を圧する威厳と華やかさを身につけ、輝くばかりの美しさでポーズをとっています。

 スペイン国王フェリーペ4世付きの画家であったベラスケスは、王と二番目の妻マリアーナ・デ・アウストリア王妃との第一子、マルガリータを3歳のときから何度も描いてきました。現在、6点が残されていますが、そのどれもが、画家の温かい眼差しに満たされた肖像画となっています。ベラスケスは多くの宮廷人を描き続けましたが、その中でも、マルガリータ王女の肖像には格別な思いが込められていたように感じられます。
 王女はこのあと、15歳で神聖ローマ皇帝レオポルド1世に嫁ぐことが決められていました。ですから、こうした肖像画は写真のない当時、いわばお見合い写真のようなもので、少女の成長の記録でもあったのです。
 ウィーンの宮廷に送られる肖像画が、マルガリータの素晴らしさを十二分に伝えるものとなるように、ベラスケスはどれほど心を込めたことでしょうか。幼いときからずっと見守ってきた大切な王女が、ほんの少しも見劣りすることのないように、との画家の強い思いが伝わります。
 そして、鮮やかな朱色と銀灰色の豪華なドレス、白いレースのハンカチの質感のみごとさは、晩年のベラスケスの充実ぶりを無言のうちに見る者に知らしめます。運命に逆らうことなく毅然とポーズをとる王女を、老境に差し掛かった画家は、こぼれるような朱色のなかに描き出したのです。
 さらに、画面のリアルさ、微妙な色調、流れるような筆致は印象派の先駆けと言われています。巨匠ベラスケスの衰えを知らない先駆性は、200年も先の斬新な画家たちの登場をも予告してしまったということなのでしょうか。

 ところで、この作品はベラスケスの絶筆となりました。彼は過労のため、作品を完成させることなく60歳でこの世を去ったのです。そのため、この見事に流麗な肖像画はウィーンへ送られることなくマドリードにとどまり、顔の部分は画家の娘婿であり弟子でもあったマルティネス・デ・マソによって加筆されたと言われています。
 それを知って改めて見直すとき、画面の中のマルガリータ王女は、どこか現実の世界とは違う、夢の中に立つお姫様のようにも感じられます。たっぷりとした、朱色に輝く緞帳のようなカーテンは息苦しいほどの重量感をもって見る者を圧倒し、マルガリータ王女をあらゆる外敵から守ろうとする何者かの姿のようにさえ感じられてしまうのです。
 

★★★★★★★
マドリード、 プラド美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎スペイン宮廷画物語―王女マルガリータへの旅
        西川和子著  彩流社 (1998/05/01出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
 

 



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