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「家畜商人」

マルク・シャガール (1912年)

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 くっきりとした色彩の美しい、楽しそうな笑い声が聞こえてきそうな作品です。
 シャガールの父親は貧しい鰊倉庫の労働者でしたが、祖父は裕福な家畜商人で、シャガールをとても可愛がっていました。そして、シャガールは時おり、叔父の馬車でにぎやかな市場へも連れて行ってもらったらしく、この作品は、そんな楽しい思い出を描いたものだと言われています。
 パリに出て、明るい色彩に目ざめ、独自の作風を開拓しながらも、シャガールは心のどこかでいつも望郷の念にかられながら、現実にあるものと心の中に生きているものとを一つにし、そこに抒情的な、彼独特の幻想世界を描いていったのだと思います。

 この作品の中で、馬車を引く馬が仔馬を身ごもっていて、それが透明に示されていますが、これなどは彼が言うところの「心理的レアリスム」というものなのではないでしょうか。
 シャガールは、
「わたしの絵はシュルレアリスムのずっと前から、非論理的・非現実的だった。わたしの望んでいたものは、お望みならレアリスムと言ってもいいが、ただし心理的であり、したがってオブジェとか幾何学的フィギュールとかのレアリスムとは全然別のものだ」
と言っています。
 シャガールは、現実の表面的な姿にはとらわれずに描く、彼なりのレアリスムをずっと追究し続けた画家だったような気がします。だから、お腹の仔馬が透明に見え、人々が宙に浮いても、それが彼の複数の視点、流動する視点から見た現実だったのであり、彼はそれを子供のような心で自由に描いていたのだと思います。

 ところで、この作品の中には、動物たちと人間が仲良くまじり合う光景がのどかに描かれています。これは、家畜商人であった祖父の、動物たちの命のやりとりを生業としていた行為、そしてそれと知らず、市場へ行くことを無邪気に喜んでいた自分自身への贖罪を祈る気持ちが込められているのかも知れません。
ここにあるのは、あくまでも平和で美しい世界です。

★★★★★★★
バーゼル美術館蔵



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