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「ヴァイオリン弾き」

マルク・シャガール (1912-13年)

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 緑色の顔をしたヴァイオリン弾きが宙に浮きながら、陽気に曲を奏でています。おそらく、体を左右に動かしながら、楽しげな曲を弾いているに違いありません。左下の3つの顔は、その演奏に熱心に聞き入っていますが、これは3つとも、若き日のシャガール自身だと思われます。
 みごとな演奏に惹きつけられた記憶が、思わず3つも顔を描かせてしまったのでしょう。
 東欧圏のユダヤ人街(ゲットー)では、音楽だけが人々の心の救いであり、さまざまな祭り事には楽師の演奏が欠かせなかったといいます。シャガールの叔父や隣人たちも巧みに楽器を弾きこなしたそうですから、そうした思い出にもつながる作品なのだと思います。

 パリに出たシャガールは、最初ヴォージラール街の屠殺場に近い「ラ・リュシュ(蜂の巣)」と呼ばれるアパートに住みますが、その共同アトリエにおいて、彼はたくさんの画家や詩人たちと知り合い、キュビスムをはじめとする新しい傾向の洗礼を受けることになるわけです。そこはモディリアーニ、レジェをはじめとして、たくさんの貧しいながら感受性豊かな芸術家の溜まり場でしたから、ユダヤ人として世間の冷たい視線を受けることの多かったシャガールも、似たような境遇にあったスーティンたちと知り合うことで、制作に集中することができたと言われています。
 そんな中に、詩人のギヨーム・アポリネールもよく訪ねて来ていたのですが、ある日、シャガールの作品を見て、「超自然的(シュルナチュラル)」だと言ったそうです。それはシュルレアリスムとは違う、現実の表面的な姿にとらわれずに描く、現実にあるものと心の中に生きているものを一つにして幻想世界をうちたてる、本当にシャガール独特の世界を言い当てた言葉だと思います。

 ヴァイオリン弾きやチェロ弾き、花束や動物たち、道化師、そしてロシアの教会や木造の家、浮遊する人はシャガールの作品に頻繁に出てくる記号にも似た影像ですが、このファンタスティックな要素は、いずれも、固定した視点から現実を眺望する遠近法を逸脱したところに生きています。
 この「超自然(シュルナチュラル)」な表現は、自然とともに生きてゆくことの歓びを歌う祝祭的な空間、そして、画面に現実とは別な次元の現実をもたらすものなのです。

★★★★★★★
アムステルダム市立美術館蔵



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