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「白い磔刑」

マルク・シャガール (1938年)

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 息が詰まるような、暗く沈んだ色調と、無器用なほどにささくれた線でふちどられた作品です。愛と生の歓びをうたう、美しい作品の多いシャガールなのですが、中央のキリストのみならず、おびえ逃げ惑う人々の表情が悲痛です。キリストの背景にあるのは、第二次世界大戦を間近にした世界の混乱する姿なのです。

 不安な世情の中で、ユダヤ人として追われるシャガールの孤独と、大きな命運に身をゆだねるしかない寄る辺なさは、どのようなものだったのでしょうか。シャガールはユダヤ人としての自らの血に、すぐれて忠実な画家と言われています。ベラとの幸せな生活の中にいても、600万人の犠牲者を出したナチスによるユダヤ人への迫害は、彼の心の消し去り難い苦悩であったろうと思われます。だからこそ、ユダヤ人としての心をもって愛の世界を描き続けることが、彼の精一杯の時代への告発だったに違いありません。

 この「白い磔刑」は、そんな政治情況の悪化からくる不安と苦悩の象徴であるばかりでなく、十字架の上のキリストは、シャガール自身の姿なのだろうと思います。ユダヤ人差別に苦しみ続けた過去の悲惨な命運と現在の現実とは一つになって、切実に彼に重くのしかかって来ます。
  「フランスにおける芸術のユニークな技術革命に参加しつつ、わたしは気持ちの上では、わたしの魂へ、言うならば、自分の故郷へ向かうのだった。自分の目の前にあるものに背を向けながら生きていたのだ」
という回想からも、シャガールが自由に描く事によって、より故郷を見いだし、ユダヤ人としての自分を見いだしていったことがうかがえます。

★★★★★★★
シカゴ美術研究所蔵



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