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「ヘロデ王の前で踊るサロメ」

ギュスターヴ・モロー (1876年)

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 サロメ….これほど華麗で幻想的で、モローにふさわしいテーマがあるでしょうか。 モロー自身も深くサロメには魅了されていたのでしょう、1872年ごろから「踊るサロメ」の構想を練っており、「刺青のサロメ」など、一種異様な、線描が刺青のように見えるサロメなども描いています。その中でも、特にこの作品は、その華麗さゆえに宝石細工にも譬えられたもので、これから行われる洗礼者ヨハネの斬首という惨劇への緊迫感までも、その豪奢な画面をより美しく彩ってしまうのです。

 幾重にもアーチが重なった宮殿の広間につま先立って、豪華な衣装を身にまとったユダヤの王女サロメが、ゆっくりと左手を上げて次の瞬間を待っています。彼女の右手には快楽を象徴する蓮の花が、そして、右下には淫蕩を表す黒豹が横たわって、男性を破滅させる女のイメージが色濃く漂っています。
 中央のアーチの下には、後ろからの光を受けて、二柱のミトラ神を脇侍にしたエフェソスのアルテミス像が浮かび上がり、その下の玉座にはヘロデ王が座っています。玉座の左側の柱の陰から顔を出してじっと様子を窺うのは王妃ヘロデヤで、右側には剣を持った刑吏が立って、ヨハネ斬首のための舞台は、すべて整えられたところです。

 それにしても、服飾史上に例を見ないと言われるこのサロメの豪華な衣装は、まさしくモロー得意のイメージの合成で完成されたオリエント風のもので、インドや日本の仏像を想わせるエキゾチックな雰囲気が香っています。なんともため息の出るような贅沢さで、私たち、特に女性は、ただただ見とれてしまうばかりなのです。

 ところで、モローはサロメに関して、次のように解説を加えています。
「この女は、曖昧な、時として恐ろしい理想を追い求めて花を片手に人生を横切ってゆき、すべてを、天才や聖者までも足下に踏みしだいて行く、軽やかで不吉な小鳥のような永遠の女を代表している。この踊りが行われ、この神秘の歩みが成就するのは、絶えず彼女を見つめ、陶然と口を開いて取り入ろうとする死の前、打ち降ろされる剣を携えた刑吏の前である。これは言いようのない理想や官能や病的な好奇心を求めるものに与えられた恐ろしい前途の象徴なのである」。

 モローの生きた時代、それはまさしく大衆の支配した時代でした。しかし、高貴なものと低俗なもの、本物と偽物を直感的に見分けてしまう鋭敏さを持ったモローは、大衆….本物と偽物の見分けがつかない大衆が、凡庸なものに喝采を送る状況が耐えられなかったのでしょう。だから彼は孤独な隠遁者の道を選びました。自らの芸術と心を守るために…..。
 モローはつまり、群集を嫌悪する画家だったのです。たとえば、群れているものなら花でさえ、嫌悪したのです。
「花壇やその他、多くの花が群れているのを人々があんなにも嘆賞するのを見て、何とも恥ずかしい思いがした」
と書き記したほどに….。
 そんな孤高のモローだからこそ、この華麗で一種独特な異様さを秘めたサロメが完成し得たのだと思います。

★★★★★★★
ロサンゼルス  アーマンド・ハマー美術文化センター蔵



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