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「イアソンとメディア」

ギュスターヴ・モロー (1865年)

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 衒学的…とでも言うのでしょうか。画面左の円柱に蔦のようにからみついたリボンには、ラテン語でオウィディウスの『変身物語』の一説が書き込まれています。背景の植物などの精緻な細部描写、折れた槍に刺されて踏みつけられた鷲の謎めいた描写など、少し装飾的要素が強すぎて、アカデミックで月並みな印象を受けてしまいそうな作品です。
 でも、モローの作品の中でも、このイアソンはひときわ美しい目鼻立ちを持っていて、なんだかアニメの主人公を見ているような気分になってきます。まるで少女のような面差しは、後ろに立っているメディアの妹のような感じさえ受けてしまうのです。

 ギリシャ神話に登場するイアソンは、イアルコス国の王子でした。しかし、王国を叔父に乗っ取られてしまい、彼は支配権を取り戻すために、交換条件の金の羊毛を探すための旅に出ます。そして、金の羊毛がコルキス国にあることを知り、愛と美の女神アフロディーテにコルキス国王の娘メディアを黄金の矢で射させ、イアソンはメディアと結婚し、金の羊毛をも手に入れるのです。
 モローはこのイアソンについて、次のようなメモを残しています。
「若々しい青春の只中にある英雄の心臓が、戦いのファンファーレのようにひびき高鳴る。彼にとって、栄光は、愛と同様、一つの分捕品でしかない」。
つまり、妻に迎えたメディアもまた、イアソンにとってはもう一つの戦利品でしかないのだ、ということかも知れません。
 しかし、背後から落ち着き払った余裕のある表情でイアソンの肩に手を置くメディアを見ると、イアソンがあまりにも子供っぽくて、彼のほうがメディアの手中にまんまと落とされたんじゃないのかしら?…という気がしてきます。メディアはこの後、イアソンが浮気をすると復讐のために自分の子を殺してしまう、なかなかスゴイ女性ですから… 何も知らないイアソンが、ちょっと可哀相な気がしてしまったりするのです。

 この年、モローはナポレオン三世の居城コンピエーニュに、当時活躍していた他の芸術家たちと共に招かれるという栄に浴しますが、これを境に、モローの社交生活は地味なものとなり、そして他の人を寄せ付けることなく、自分の内部の確固とした精神世界を神秘的なほどに守り続けるようになってゆくのです。

★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館蔵



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