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「黄金の階段」

エドワード・バーン=ジョーンズ (1876-80年)

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 大きくカーヴした階段を上から下へ、おのおの楽器を手にした女性たちが降りてきます。笑いさざめく声がやがて楽曲のハーモニーとなり、それはとどまることなく繰り返されます。女性たちはどこか心ここにあらぬ風情で、しかし、全く意思を持たぬ人形のようでもありません。いかにもバーン=ジョーンズ…といった面立ちで、汚れを知らない清らかさと、ちょっと屈託したもの思いも感じさせます。

 この輝かしく美しい階段を描いた作品は、別称を『王の階段』又は『階段の音楽』とも呼ばれています。さまざまなイメージが湧き上がりますが、この作品には明白な主題のようなものがありません。あえて言うなら”音楽”でしょうか。彼女たちは、さしずめ奏楽天使なのでしょう。ベルギーの象徴派絵画を代表するクノップフは、この作品に非常に強い影響を受けたと言われています。

 この時期、バーン=ジョーンズは象徴主義的感性を開花させ始めていました。彼の心は、本来の魅力を失ったラファエル前派から距離を置くようになっていたのです。それは、1871年と73年にイタリアを訪ねたことで、ミケランジェロやマンテーニャ、特にボッティチェリなどの15世紀イタリアの画家たちの影響を示し始めたことで、より明確になっていきました。その神話的雰囲気は、作家ヘンリー・ジェイムズに「文化の芸術であり、知的贅沢、美的洗練の芸術である」と言わしめ、バーン=ジョーンズをイギリスのみならず、国際的にも著名な画家に押し上げていきました。
 バーン=ジョーンズの中にある中世的志向、夢想的特質は、彼の現実逃避的な性格からくるものだとの説は定着しています。確かに、彼の描く主題は画家の想像の産物、黄金時代的絵画ばかりだったかも知れません。しかし、本来聖職者を目指したバーン=ジョーンズが求めた世界の美しさを、否定できる人はいないだろうと思います。むしろ彼は、喜びをもって現実逃避を選んだのであり、それがやがて、当時の物質主義に対する批判から生まれた象徴主義を指向するようになったのは、ごく自然な流れだったような気がします。

 ところで、”階段”は、より高く、より天に近い領域へと上昇することを象徴するものです。古代文明においては、階段状の構造をもつ神殿が多く見られました。その階段を、昇るのではなく降りて来る女性たち….。色彩を抑えた画面の中で、彼女たちは清らかな銀色の音色を奏でているようです。

★★★★★★★
ロンドン、 テイト・ギャラリー 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎キリスト教美術図典
        柳宗玄・中森義宗編  吉川弘文館 (1990-09-01出版)
  ◎ラファエル前派の夢
        ティモシー・ヒルトン著  白水社 (1992-01-20出版)
  ◎ラファエル前派―ヴィクトリア時代の幻視者たち
        ローランス・デ・カール著 高階秀爾監修  創元社 (2001-03-20出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)

 



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