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「クピドとプシュケ」

エドワード・バーン=ジョーンズ (1865年)

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 クピドとプシュケのお話は、神話ではなく、古代末期のお伽噺です。
 プシュケは、愛と豊穣の女神ウェヌスの妬みを買うほどの美しい乙女でした。そのため、ウェヌスは息子のクピドを遣わして、プシュケが誰かつまらない男を愛するよう、仕向けさせようとします。ところが、なんと当のクピドが美しいプシュケを好きになってしまうのです。彼はプシュケを自分の宮殿に連れて行き、暗くなってからのみ訪れて、自分の姿を絶対に見てはいけないと禁じました。彼が人間ではなかったからです。
 しかし、プシュケは姿を見ることのできない恋人に好奇心と恐れを感じ、また、嫉妬深い二人の姉妹にそそのかされたこともあって、クピドの寝ている姿を見てしまいます。目を覚ましたクピドは怒ってプシュケのもとを去り、宮殿も消え去ります。プシュケは恋人を求めて地上を彷徨い、再びクピドに会えるかも知れないという希望に支えられて、ウェヌスから与えられる無理難題の数々を成就していきます。ところが、冥界のプロセルピナのもとから小箱を携えて地上に戻る途中、開けてはならないという言いつけに背いてその蓋を開けてしまい、プシュケは深い眠りに落ちてしまいます。しかし最後に、クピドの愛が彼女の眠りを解き、二人はやっと結ばれるのです。

 この場面は、まさにその眠りにとりつかれたプシュケを、クピドが目覚めさせようと近付いたところなのでしょう。しかし、背中の翼と手にした矢がなければ、この青年がクピドだとは誰にもわからないかも知れません。バラの香りに包まれて眠る乙女の美しさに、吸い寄せられるように近づく若者….そんなロマンティックな連想しか湧いてこないのではないでしょうか。

 バーン=ジョーンズは、古典神話や中世の伝説をはじめとして、文学に主題の多くを得て、神秘主義的で装飾性豊かな作品を非常に多く残した画家です。しかし、主題の追求そのものは、この作品を見てもわかるとおり、それほど目的の中心に置いていたわけではなく、優美で静謐な、彼独自の詩的世界を構築することが、何よりも大切なことだったと思われます。ですから、とり上げる神話や伝説は、彼の内的世界を仮託するメディアとして一番適したものだったのかも知れません。ラファエル前派の創立メンバーではありませんでしたが、作品にはダンテ・ガブリエル・ロセッティをはじめとしたこの集団の作風、影響が色濃く反映しており、豊かな色彩の中に崇高な精神性を見てとることができます。

 ところで、この物語は愛(クピド)と結ばれることを求める魂(プシュケ)の哲学的寓話です。そして、ここに描かれているのは、その美しい姿なのですが、一度ならず二度までも好奇心に負けてしまうプシュケには人間の弱さ、頼りなさが反映されています。せめてクピドに見守られるこの瞬間だけは、自らの愚かしさやつらい思い出を何もかも忘れて、安らかに休ませてあげたい…物語を知る鑑賞者は、そんな思いにとらわれてしまうのではないでしょうか。

★★★★★★★
マンチェスター、 マンチェスター市立美術館 蔵



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