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「聖母被昇天」

ティツィアーノ (1516-18年)

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   <祭壇画の聖母の部分>

 ダイナミックで力強く、輝かしい色彩で見る者を圧倒する聖母です。黄金の光に包まれ、天の父たる神のもとへ昇っていく聖母の劇的な表現は、ティツィアーノ・ヴェチェリオ(1488/90-1576年)のヴェネツィア美術支配を宣言するものとなったのです。
 このヴェネツィア最大の、690×360㎝の祭壇画を目にしたとき、人々は熱狂したといいます。画面全体が聖母を中心にぐるぐる回るように躍動し、登場人物だけでなく鑑賞者もまた、その勢いにのみ込まれてしまったのでしょう。

 しかし、依頼主であるフラーリの修道院長ジェルマーノは困惑しました。使徒たちの荒くれ者のような表現が、余りにも従来のものとは違っていたからです。それまで、ベッリーニジョルジョーネの優美な表現に慣れていた眼には、ティツィアーノは新しすぎ、過激すぎたようです。後にはヴェネツィア派の象徴ともなった作品も、ご多分にもれず、初めは権威ある人々の拒否にあってしまったのです。
 のちに「ラファエロの美しさとミケランジェロの迫力を持つ」と評されたティツィアーノでしたが、1545年から46年にかけてのローマ旅行の折、ミケランジェロと論争をしたことは有名です。二人の巨匠は相反する芸術観を抱いていました。ミケランジェロが線描と人体表現に重きを置いたのに対し、ティツィアーノは何より優先すべきは色彩であると主張したのです。若き日の画家の、このみずみずしい色彩表現を見るとき、すでに彼がみずからの進むべき道を見据えていたことが感じられます。

 ヴェネツィア派最大の画家であるティツィアーノの85年以上に及ぶ長い人生は、限りない成功と栄誉の連続であったと言って間違いありません。しかし、そこには、彼のあくなき探究と挑戦があったのであり、決して止まることを知らない人生でもありました。
 そんなティツィアーノの画家としての名声を不動にした初期の大作は、前バロック的ともいえるダイナミックな構図と明暗の対比で、今も私たちの目と心を圧倒するばかりなのです。 

★★★★★★★
ヴェネツィア、 サンタ・マリア・グロリオーサ・デイ・フラーリ聖堂 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)



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