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「聖母子と幼児ヨハネと聖カタリナ」

ティツィアーノ (1530ころ年)

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 この美しい愛の光景を、どれほど多くのひとが溜め息とともに眺めたことでしょうか。
 輝くばかりの青い空から天使が舞い降り、その空よりももっともっと鮮やかで、そして深い青の衣を身にまとった聖母の顔の、なんという美しさでしょう…。 聖カタリナと幼な子イエスを見守る慈愛に満ちた表情は、やはりこの世の人というよりは、天上に一番近い女性…神に選ばれたたった一人の女性なのだと納得してしまいます。そして、このマリアという女性の顔を具体的に、おそらくまったく、このとおりの人であったろうと、私たちにもまた思わせてしまうティツィアーノの力量にも、ただただ感服…してしまうのです。

 まだ幼く、巻き毛の可愛らしい聖ヨハネの差し出す掌から、白い花を一輪受け取ろうとするマリアの右手の、ひじの部分から手首への線、そして指先の、なんて自然な丸みのある、やさしい動き….。 ここに、イタリア・ルネサンス絵画の巨匠中の巨匠ティツィアーノの、いかにも彼らしい柔らかで表現力に満ちた筆触、そして色彩的、女性的、官能的な詩的世界が凝縮されているようです。
 また、マリアの足元で赤ちゃんのイエスの顔をのぞきこみ、何やら親密に話し掛けている風情のアレクサンドリアの聖カタリナは、成人したキリストと幻のなかで神秘的な結婚を交わすとされている聖女です。未婚女性の保護者と言われる彼女は、聖母とはまた違う、とても人間的な、体温の十分に感じられるふくよかさで表現されています。
 全体の画面は、構図的には1510年代の風景のなかの「聖会話」そのままですが、あたりの大気を大きく取り入れ、ドラマを包み込むような理想郷的、牧歌的田園のなかでの聖会話となっていて、ティツィアーノ独特の息遣いの感じられる、幸福感に満たされているのです。

 しばしば、ミケランジェロの「造形力」と対比されて、ティツィアーノの「色彩」が語られるわけですが、その「色彩」には詩があり、物語があり、そして豊麗なドラマがあります。その魅力は同時代のヴェネツィア派の画家たち…ヴェッキオ、ティントレット、ヴェロネーゼらを刺激し続け、16世紀ヴェネツィア絵画の黄金時代へと導いていくのです。

★★★★★★★
ロンドン、 ナショナル・ギャラリー蔵



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