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「羊飼いの礼拝(夜)」

 コレッジオ (1529-30年)

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 光り輝く幼な子イエスを胸元に抱き寄せ、母親ならではの至福の表情で見つめる聖母の、なんと美しいことでしょうか。イエスから発する神秘的な光は、イエスを光源とした二本の対角線となって人々を照らし出します。
 天使たちの祝福のもと、メシアの降誕に立ち会う人々の表情も、喜びに満ちています。知らせを聞いて駆けつけた羊飼いは感動に浸り、村娘は、光のまぶしさに思わず手をかざしています。質素な厩の出来事だけれど、この上なく幸せな情景なのです。背後で、乗ってきたロバの世話をするヨセフの姿が、ちょっと影が薄くて気の毒なような気もするのですが……。

 旧約聖書に登場するアブラハムもダビデも、実は羊飼いでした。羊飼いは夜の星を見上げて、天上界の異変をいち早く察知できる存在だったのです。羊飼いが野の人であったことは確かですが、決して社会的身分の低い人々ではありませんでした。むしろ、遊牧民としての誇り高く、天上の神と最も近しい人間たちだったと言っていいのだと思います。だからこそ、福音書記者のルカは、イエス降誕の最初の証言者として彼らを選んだのでしょう。
 野宿をしていた羊飼いたちのもとへ、夜の闇を切り裂いて天使が降りてきて告げました。
 「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。今日ダヴィデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシヤである。」
 それを聞いた羊飼いたちはベツレヘムへ行き、飼い葉桶の中で眠る幼な子を見つけたのです。

 キリスト降誕の場面は、本当に多くの画家によって描かれ続けてきました。画家それぞれの個性や思い入れもあり、さまざまに表現されてきたのですが、北イタリアのパルマで活躍した画家コレッジオは、夜の闇を照らす暖かい光の効果を用いて描きました。この作品は画家の傑作の一つとして名高く、その見事な夜景表現から、「ラ・ノッテ(夜)」という愛称で親しまれているのです。
 そして、「ラ・ノッテ」の最も優れた点は、その明暗の表現もさることながら、描かれた人々の相互に関連し合う身振りと表情でしょう。それは、ごくごく自然に見る者の心に馴染みます。これが特別なことなどではなく、どの国のどの町にでも展開される、赤ちゃん誕生の光景だからなのでしょう。幸福で喜びに満ちたその場の雰囲気、笑い声や、「まあ、可愛い」といった囁きまでも、やさしく密やかに聞こえてきそうな美しい画面です。

★★★★★★★
ドレスデン国立絵画館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ、宮下規久朗編  日本経済新聞社 (2001-02出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也訳  講談社 (1989-06出版)
  ◎図説 聖書物語 新約篇
       山形孝夫 著・山形美加 図版解説  河出書房新社 (2002-11-30出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版) 



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