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「天井装飾」

コレッジオ (1519年ころ)

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                   <この天井画のある居室の様子>   

 輝かしい天国への道が目もくらむような幾筋もの光となって伸びていきます。頂点へと収斂されたとき、私たちは実際に神を見るのかもしれません。一点の曇りもない荘厳な力に、無力な人間はしばし言葉を失い、立ち尽くすばかりです。

 ドイツの画家アントン・ラファエル・メングスは1774年、パルマのベネディクト会女子修道院を訪れ、この天井画と対面しました。その瞬間、画家はそれまでに見たことのない奇跡と出会ったのかもしれません。彼のこの発見以来、この地は北イタリアにおける盛期ルネサンス美術の聖地であり続けています。

 この美しい作品は1519年、当時の修道院長であったジョヴァンナ・ダ・ピアチェンツァが委嘱し、ラファエロやティツィアーノと並び称される盛期ルネサンスを代表する画家コレッジオによって制作されました。見事な世界観に圧倒されるこの部屋は、彼女自身の客間と食堂を兼ねた居室だったのです。画家はこの天井画を制作するためにその直前にローマ旅行をし、異教的主題の構想を得たのではないかと言われています。
 それは天井画の下、暖炉の上部に描かれた、月の処女神であり狩りの女神でもあるディアナの装飾を見ると明らかです。こうした異教的な主題は、当時、貴族の子女が多かった女子修道院には珍しいものだったといえます。そこには才女の誉れ高い修道院長ジョヴァンナの意向が、強く反映されていたに違いありません。月の女神ディアナは修道院長の貞潔を表すだけでなく、暖炉の火によって生き生きと照り映える動的な絵画効果もまた十分に意識されたものでした。

 壁画は三つの部分からできています。一つは北の壁にある「火を剣でかき立てることなかれ」という銘文を持つ暖炉の上部のディアナです。夜のとばりを下ろすように天界に昇っていくディアナは美しく、健康的です。
 二つ目は円天井に描かれた天使(プットー)たちです。16に分割された区画の中で、彼らは弓や猟犬、角笛、そして鹿の首を持ち、戯れたり奪い合ったり、何とも元気に遊んでいます。
 そして三つ目は、だまし絵ふうの16の区画に描かれた古代風の寓意像たちです。美術史家のパフノフスキーによれば、東壁は水・土・空気・火の四大元素の巫女たちからなる「自然の鏡」、西壁と北壁は「美徳の鏡」、南壁は「教義の鏡」の寓意像ということになります。つまり、この部屋に入る者は自然を通って美徳と対面し、運命について考え、やがて美徳こそが運命の伴侶であると知るというわけなのです。

 蔓棚や果物をあしらった背景に、だまし絵的にあけられた天窓から姿を見せるプットーたちは、仰視法によってこの天井画全体を活気づけてくれています。それは修道院長ジョヴァンナの闊達な心そのままのように感じられます。さらに彼女はもしかすると、修道女にしてはなかなかの美食家であったかもしれません。ディアナの狩りの後の饗宴を暗示するように、天井の下層部の白い帯の間にはきれいに磨かれた食器が描かれています。そして、その幾つかには月桂樹が添えられているのです。

 個々の寓意には諸説あり、特定はなかなか難しいと言われています。しかし部屋の扉には「徳はすべてに通ずる道」と記されており、ジョヴァンナとその徳への称賛が意図された天井画であることは間違いないと思われます。そしてここで見過ごしてならないのは、コレッジオが特定の様式にとらわれない画家であるという点です。この円天井の装飾が、めくるめくようなバロックの先駆けであることは言を待ちません。そして彼の柔らかな色彩の饗宴を目の当たりにしたメングスは、「コレッジオは見る者の目と魂を喜ばせようと努めた最初の画家であり、彼の芸術上の努力はこの目的を達成することに注がれていた」と書き残しています。

★★★★★★★
パルマ、 サン・パオロ女子修道院 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館  
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ、宮下規久朗編  日本経済新聞社 (2001-02出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也訳  講談社 (1989-06出版)
  ◎ルネサンス美術館
       石鍋真澄 (著、監修)  小学館 (2008-10-24出版) 



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