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「幼いキリストを礼拝する聖母」

コレッジオ (1524-26年)

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 傾きかけた柔らかい陽射しの中、聖母マリアは厳かに、幼な子イエスを礼拝しています。そっと広げた手のひらは、通常の両手を合わせる表現以上に包み込むような愛情にあふれ、神から授かった大切な宝物を慈しむ様子が、厳粛ななかにも微笑ましい、やさしいこころもちにさせてくれます。

 そしてイエスはと言えば、そんなお母さんを見つめてすっかりゴキゲンなのでしょう、無垢の信頼の表情で、聖母に右手を差し伸べています。そして、その信頼に応えるように、聖母は自らのマントの上に藁を載せ、その上に柔らかい布を敷いて、生まれて間もないイエスをそっと寝かせているのです。この細やかな心配りはやはり、人間が生きてゆくうえにどうしても必要な「愛」というものを、最もわかりやすいかたちで身をもってあらわすことのできる母ならでは…のものと言えるかも知れません。キリストといえどもまだ頼りなく、母の手を必要とする乳呑み児なのです。赤ちゃんというものは、不思議なほどに侵しがたい気品をそなえているものですが、「信頼」が真の気品を生むものだということを私たちにありありと示してくれているような、そんな美しい作品です。
 聖母の後ろには、廃墟の中にがっしりとした円柱が見られ、その向こうには、のどかで緑豊かな風景が広がっています。そこには静かな古典主義の雰囲気が漂い、私たちをひそやかな優しさで包んでくれます。生まれたばかりの赤ちゃんにとって、お母さんは全世界、全宇宙….。まだ何のちからもない小さな自分が置かれた世界に対する「信頼」を、イエスは聖母から与えられているのです。

 16世紀に北イタリアのパルマで活躍したコレッジオは、ダ・ヴィンチやラファエロの芸術を消化しながら甘美な人物像を描いて、マニエリスムにも影響を与えた画家です。この作品にも見られますが、聖母の肌の柔らかさにはダ・ヴィンチに学んだスフマートというぼかしの手法が感じられ、そこには聖母らしい清らかさとともに、なんとも甘やかな女らしささえ漂って、そんなところがいかにもコレッジオらしい美しさなのです。彼の場合、強い明暗の対比や、天井画などに見られる大胆な手法にはマンテーニャの影響も感じられますし、作品の中に、とても多様な様式が融合されています。それはコレッジオの多才さと柔軟さの証明でもあるでしょうし、また、非常に強い上昇志向の表れにも思えます。
 しかし、この決して大きくない作品の中にひそやかに描かれた清らかで暖かい光は、彼のまた別な面を見せてくれているような気がします。神から授かった我が子を礼拝する聖母の姿に、生命そのものの聖性を讃えてやまないコレッジオの、深い愛しみのこころが見えてくるようです。

★★★★★★★
フィレンツェ、 ウフィッツィ美術館 蔵



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