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「果物籠」

 ミケランジェロ・カラヴァッジオ (1596年)

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 シーンと乾いた空気、超現実的なカラリとした光の中、この、おそらく世界で一番美しい果物籠は、実は、カラヴァッジオ唯一の静物画なのです。そして、静物画という全く新しいジャンルへの道を拓いた、記念すべき作品でもあります。

 秋の豊かな果物たちは、今にも水滴がしたたるほどにみずみずしく、ここまで精緻に描ききる画家の力量には目まいを覚えるほどです。
 しかし、さらに目を凝らすと、リンゴは傷みかけ、ブドウの葉には虫喰いの跡が目立ちます。すでにしおれかけた葉もあり、これが決して新鮮この上ない果物たちではないことに気づきます。画家があえて、こうした素材を選んだには、わけがあったのでしょう。
 徹底したリアリズムが身上のカラヴァッジオだからこそ、朽ち果てようとする果物たちを描くことに強い意欲を持ったのかもしれません。16~17世紀の静物画においては、しばしば「ヴァニタス」…「現世のはかなさ」という寓意を持たせました。したがって、この作品でも果物に仮託して、人生や快楽のもろさ、虚しさを表現しているのだと言われています。
 また、果実を盛り付けたシンプルな籠の美しさに、私たちは果物たち以上に驚嘆させられます。台から少しはみ出しているように見えることで、より現実感が増しますが、一方で、やや危なげな印象もあり、これもまたヴァニタスなのかもしれません。この清らかな籠はそれだけで十分に作品の主役であり、画家の手によって、世界の中心たる存在となっているのです。

 カラヴァッジオ(1571-1610年)は本名をミケランジェロ・メリージといい、若いころにロンバルディア地方で修業し、純粋な写実主義の伝統を確実に継承したと言われています。その後、1590年ごろにローマに移り住み、カヴァリエール・ダルピーノの工房で共同制作に従事し、この時期、花や果物を専門的に描いています。このことは、イタリアにおける静物画というジャンルの発展に大きく貢献するものでした。
 その激しい性格から、数多くの暴力事件を起こし、果ては殺人を犯して逃亡者となり、スペイン領ポルト・エルコレで悲惨な死を遂げるカラヴァッジオですが、彼の中に共存する聖と俗、光と影の劇的なコントラストは、時として、このように他に類を見ないほど偉大で、清らかな世界もまた描き出してみせたのです。

★★★★★★★
ミラノ、 アンブロジアーナ絵画館蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎カラヴァッジォ
       アルフレッド・モワール著、若桑みどり訳  美術出版社 (1991-04-10出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)



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