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「書斎の聖ヒエロニムス」

ミケランジェロ・カラヴァッジオ (1605年)

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 まるで苦行者のような痩躯の老人は、4人のラテン(西方教会)教父の一人として知られる聖ヒエロニムスです。彼は、聖書をラテン語に翻訳した人物であり、数えきれないほど多くの画家が、翻訳中のヒエロニムスを描いています。
 多くの場合、聖ヒエロニムスは学者のような風貌です。居心地のよさそうな、小ぎれいな書斎で仕事をしています。そして、たいていライオンを伴って描かれるのです。これは、足の裏にトゲが刺さって苦しむライオンを救ったことで、聖人の傍には生涯、ライオンが付き従ったという中世の伝説からきたものです。
 しかし、カラヴァッジオは、そうした寓話的要素を全て排除し、聖ヒエロニムス一人を、厳しい孤独の中の老人として描きました。画面には机と書物、そして、ヒエロニムスの頭部を反映するような頭蓋骨だけです。みすぼらしい半裸の聖人は、隠者としても知られた彼の真の姿だったかもしれません。学究的な聖ヒエロニムスの本質が、闇に包まれた質素な室内に、極めて効果的に描き出されているのです。

 カラヴァッジオの作品は、鑑賞者の目を惹きつけて離しません。その秘密は、この構図的なシンプルさにあるのかもしれません。
 また、この時期、画家の主題の選択に大きく影響したのは、カトリック教会改革のために召集されたトレント公会議であったと言われます。そこで発令されたのが、「宗教画は俗人にもすぐに理解できるものでなければならない。余計な細部描写は省くべきであり、宗教的主題は高尚な方法で扱うべきである」というものでした。カトリックの反宗教改革は、寓話的な要素を排除することで、本質へ立ち返ろうとするものだったのです。
 カラヴァッジオの作品は、まさに、その要求に沿ったものと言えます。不必要なものは全て取り除かれ、画面は禁欲主義的で、永遠の静寂に支配されているようです。

 ところで、重ねた書物の上に置かれた頭蓋骨の意味するところは、やはり「メメント・モリ(死を忘れるな)」でしょう。人間は死する運命を持つが、神の世界は終わることがない、と言っているのです。
 頭蓋骨の空ろな目は、分身のような聖ヒエロニムスを見つめています。そして、聖人を通して、画面のこちら側の私たちにも語りかけているようです。

★★★★★★★
ローマ、ボルゲーゼ美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋名画の読み方〈1〉
       パトリック・デ・リンク著、神原正明監修、内藤憲吾訳  (大阪)創元社 (2007-06-10出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)



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