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「朝食・コーヒーを飲む若い農婦」

カミーユ・ピサロ (1881年)

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 落ち着いた色調の中、無造作に髪をまとめた若い女性が、家具もあまり置いていない感じの質素な部屋の中で、一心にコーヒーを挽いている光景です。

 プーンと漂うコーヒーの香りを楽しんでいるのでしょうか。茶色のブラウス、青のスカートという、いかにも農婦らしい彼女の姿は貧しいけれど、この一瞬、ひそやかな幸福感に満たされていると感じられます。正面左の四角い窓からの朝の光は、彼女の顔や胸や手にやさしく差し込み、戸外の果樹園のものらしい鮮やかな緑が室内に反射して、ほんの少し色彩を添えているのも、平和な雰囲気です。この落ち着いたやさしさは、本当にピサロらしくて、ホントに嬉しくなってしまいます。

 ところで、農民を描く画家として、ミレーとピサロはよく比較の対象にされます。かつて、ドガが、「ミレーの絵画は神のためのものだが、ピサロの絵画は人間のためのものである」と述べていますが、たしかにミレーの作品は、宗教的感覚におおわれ、ロマンティックで、言うなればミケランジェロ的な大きさをもってキャンバスを満たしていたと言っても良かったでしょう。

 しかしピサロは、そのような厭世的な光で、農民の生き方を示そうとはしませんでした。都市化の増大によってもたらされる苦痛の中で、感傷におぼれず、近代的な感覚で農民をとらえようとしたのです。ピサロにとって田園は、単なる都会からの隠遁の地、自然回帰、神に近い場所なのではなく、都市の生活にはない、大地とつながった無限の能力を持つ、活力の場だったのではないでしょうか。そんなピサロが愛して描いたこの農村の若い女性は、彼の哲学、真の光のあり方を、充分に表現し得る題材だったのだと思います。

 ピサロの息子リュシアンは父への手紙に書いています。「公衆があなたの絵を見ないことに驚いています。しかし、これは単なる流行の問題だとは思いませんか。あなたはあまりに思慮深く、分別がありすぎる。実際、あなたが発見されるのは、これからです」と・・・。そして、本当に私たちは今、画家の広範な思想を背景とした、詩的なたくさんの作品に心なごみ、胸打たれるのです。

★★★★★★★
シカゴ美術館(ポッター・パーマー・コレクション)蔵



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