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「宮廷の侍女たち」

ディエゴ・ベラスケス (1656年)

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 画面に漂う絶妙な調和と均衡、すぐれた色彩のバランスと黄金分割による構成、空気遠近法を十分に生かした重厚な空間・・・。あらゆる意味で完璧な、スペインの巨匠ベラスケスの最高傑作です。

  「ラス・メニーナス」・・・この絵を見たことのない人でも、この呼び名はけっこう知っているかも知れません。ベラスケスの手によって「絵画の神学」にまで昇華されたこの「ラス・メニーナス」はまた、ベラスケス自身の生涯をも象徴する作品となっているように思います。
 1632年、24歳の若さで宮廷画家となったベラスケスは、しかし、画家である以前に宮廷役人であり、公的職務に邁進する、芸術家らしからぬ常識人でもありました。ルネッサンス以降、芸術を人生の問題としてとらえ、苦悩と悲劇の中で生きるのが一般的な芸術家のイメージであったとき、ベラスケスは芸術家とは言い難いほどの勤勉な役人であったのです。
 しかし、だからこそ彼は、生涯を通じて経済上の問題からはまったく解放され、そのため、絵画の道も何一つ問題なく歩み続けることができたのです。宮廷職という不自由さの中で自由を保証されたベラスケスは、絵画に関して全く制限を加えられることはなく、自ら望むとおりの実験的作品を制作し続けることができた、ある意味で非常に稀有な画家でもありました。

 この作品は、当時のフェリーペ4世一家が画家のアトリエを訪れた場面であると言われています。
 前景中央に、可愛らしいマルガリータ王女と育ちの良さそうな二人の侍女、その右に二人の矮人といかめしい顔の犬、左側には非常に大きなキャンバスに向かって制作中の画家本人が明確な筆致で描かれています。
 中景右端には女官と召使い、後景の戸口には執事が立って、何やらものものしい国王一家の訪問風景となっています。

 ところで、その国王夫妻ですが、黒縁の鏡の中に半身像となって映っています。これは非常に不思議な光景で、実際の彼らの姿は見当たらないのです。
 しかし、よくよく見ているうちにハッとさせられるのは、国王夫妻の立っている位置は、実は私たち自身の位置なのです。そして、さらに驚きを感じることは、絵の中の人物たちが、みなほとんどこちらに視線を投げていることであり、ちょうど鑑賞者である私たちと視線を交わすかたちになっていることなのです。

 この不思議な体験、時間を超えた異空間の人びととの接触は、私たちをドギマギさせます。そしていつの間にか、人々の声が遠く聞こえる見えざる中心部に誘い込まれそうな感覚に、めまいと陶酔をおぼえずにはいられないのです。

★★★★★★★
マドリード プラド美術館



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