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「野兎」

アルブレヒト・デューラー   (1502年)

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「WebMuseum, Paris」のページにリンクします。

 豊かな毛に覆われた、丸みのある、やわらかそうな暖かそうな、本当に写実的なのに愛らしい兎です。
 きっと、アンテナのように張られた大きな耳は絶えずピクピクと、ほんのちょっとした音ももらさずに聞き取ろうと動いていることでしょうし、丸い鼻は休みなくヒクヒクと動いて、繊細なヒゲとともにあたりの気配を感じ取ろうとしていることでしょう。きちんと合わせられた前脚も、お行儀よくしようとしているわけではもちろんなく、何かが起こったら、すぐに走って逃げ出せる体勢をとっているわけで、そのデリケートで物怖じしやすい兎の姿、性質が、悲しいほどみごとに表現されています。

 実を言うと管理人は、この水彩画を見て初めて
「デューラーは素晴らしい!」
と感じたのです。これと似た作品、つまり兎の姿に似た作品を描いている画家はいくらでもいます。でも、兎という生命を描き切れる画家がほかにいたでしょうか。

 デューラーは
「自然の中にこそ真の芸術がある」
と、信念をもって語っています。驚くべき水彩の技法、デッサン力に裏打ちされた作品であることはもちろんなのですが、その柔らかそうな毛の一本一本にまで命が息づくこの兎を見ると、そうした表面的な器用さを誇るだけでは永遠に超えられない、自然への真の畏敬の念が感じられ、こちらまで不思議と素直な感動をおぼえてしまうのです。
 自然を描いた水彩では「The Large Turf」なども有名ですが、緑の香りに包まれたような雑草一本一本の生き生きとした成長のリズムがこちらにも伝わって、快い作品となっています。
 ルターはデューラーを「敬神の人」と言ったそうですが、私には「自然と生命を描いた画家」という気がしてなりません。 

★★★★★★★
ウィーン、 アルベルティーナ素描・版画収集蔵



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