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「落ち穂拾い」

ジャン・フランソワ・ミレー(1857年)

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 1850年前後に、オノレ・ドーミエ、ギュスターブ・クールベ、そしてフランソワ・ミレーの写実主義絵画を代表する3人の画家が相次いで登場しました。その中でもミレーは、労働する農民の姿を、聖書や古代文学に語られる人間の労働の根源的な意味と重ね合わせて描いた画家です。

 ミレーは日本でもとても人気があって、特にこの「落ち穂拾い」と「晩鐘」は、小さいときから教科書で目にしたり、また、家の居間などにそっと飾ってあったりしたので、私たちにとって、とても身近な作品なのではないでしょうか。
 下を向いた女性たちの顔の表情までは読み取れないのですが、夕日を背に受けて、腰をかがめて落ち穂を拾う彼女たちの姿はとてもなじみ深く、また、とても尊い印象を受けるものです。働く姿を題材にしているのに心がなごんでしまうのは、本当はいけないことのようにも思うのですが、ミレーは何よりも親しみやすい画面の中に、労働する人々の神々しさを描ける画家だったのだと思います。

 ミレーの時代、農村では、この落ち穂拾いはよく見られた光景でした。刈り入れのあと、貧しい人々や寡婦たちには落ち穂拾いの権利が認められていたのです。そのため、農夫たちは、しばしば全部をきれいに持って行かず、わざと落ち穂を残して、そうした人たちが困らないように配慮したといいます。
 ミレーは、このような農村の労働や祈りの様子を、愛情をこめて描き続けました。彼の作品からは、いつも労働の悲惨さではなく、尊さ、美しさが伝わり、私たちを素直に感動させてくれます。色彩も落ち着いて、そして控えめで、決して声高ではないのに、こちらの心はどんどん洗われていきます。
 ミレー自身がフランス・グレヴィル近郊の貧しい農村の生まれであるために、「落ち穂拾い」に見られるような題材をごく自然に見出したのかも知れませんが、決して幸福とは言えない農婦たちの姿を、こうまで詩情豊かに見せてしまうのはすごいことだと思います。画家の眼差しの優しさを感じます。

★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館蔵



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