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「聖母戴冠」

フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニ (1472-73年)

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 「来たれ、わが選ばれし御方よ。われ汝をわが玉座につかせん」。
 そう言って、キリストは聖母に冠を授けています。この瞬間、マリアは天の女王となったのです。

 聖母マリアの生涯の物語は、このように輝かしい場面で締めくくられます。苦難の母マリアの人生が、おごそかに酬われた瞬間かもしれません。そして、ここで彼女は、まるで花嫁衣装のような美しく清楚な衣をまとっています。このあたりに、画家の独自の感性が光っているようです。
 幸せそうに頭を垂れるマリアの頭上に、イエスはそっと、気遣わしげに冠を運びます。そこには、天の神の子としてではない、一人の息子のやさしい表情がうかがえます。
「お母さん、ありがとう」
とでも言っているかのようです。
 しかし、二人を取り巻く群像は、やや奇妙で独創的です。まるで空間恐怖の如く、びっしりと描き込まれた40人ほどの登場人物は、驚くほどリアルに、誰が誰と判別できるほどに明確に描き分けられています。おのおのが、思い思いに語り合ったり沈思したり、あるいは歌ったりしているのですが、そこには、厳かで幸福な主題とはかかわりのない不思議な雰囲気が漂っているのです。
 そして、天使たちが持ち上げる演壇は、とても奇妙で無気味でさえあります。装飾として置かれた天使たちは、まるでボンレスハムの塊のようでもあり、清らかな聖母とは余りにも無縁のもののように感じられるのです。
 さらに驚くのは、画面上方でつむじ風に巻かれた如く翻弄される父なる神です。こんな落ち着きのない神の姿は見たことがありません。
 
 この大胆で複雑な、337×200㎝の大作を描いたのは、15世紀後半にイタリアで活躍した芸術家、フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニ(1439-1501年)です。彼は、多岐にわたる才能の持ち主であり、ある意味、万能の天才でした。建築家であり、彫刻家であり、画家であっただけでなく、軍事技術に秀で、科学技術者でもあり、発明家でもありました。そして、なんと、レオナルド・ダ・ヴィンチの友人であったという事実からも、彼の能力の高さがうかがえるのです。
 レオナルドと同様、多くのものに関心を寄せたジョルジョ・マルティーニは、絵画に専念した期間もごく短いものでした。にもかかわらず、15世紀後半のシエナ絵画を語るとき、決して外すことのできない印象的な巨匠として知られています。独創的な着想にあふれた彼の表現様式は、当時の画家たちに大きな影響を与えました。
 この作品でも、極端な遠近法によって、ある種、衝撃的な姿で表現された父なる神は、見る者に相当なインパクトを与えずにはおきません。

 この祭壇画は、ナポリ副王の顧問、ジョヴァンニ・チャンチ・ヴァレンティーノの依頼によって、モンテ・オリヴェート・マッジョーレ修道院のサンティ・セバスティアーノ・エカテリーナ礼拝堂のために制作されました。そののち、同所から撤去され、サンタ・マリア・デラ・スカーラ病院に移されましたが、19世紀になって、現在のシエナ国立美術館所蔵となり、その印象的な曲線と装飾的な色彩によって、当時と変わらず強いインパクトを放ち続けているのです。

★★★★★★★
イタリア、 シエナ国立美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎新約聖書
        新共同訳  日本聖書協会
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
        佐々木英也訳 講談社 (1989-06出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001-02出版)



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