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「聖三位一体」

ロベルト・カンパン (1430年ごろ)

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 この迫真の作品を目の当たりにしたとき、多くの人が、これが絵画であるとは にわかには信じられないような気がします。まるで教会堂の壁龕内に設置された彫像のように見えますが、実はグリザイユと呼ばれる単色の板絵なのです。
 初期フランドル絵画にしばしば見受けられるこの手法は、15世紀南ネーデルラント絵画の黄金期を開いたロベルト・カンパンが最初に手掛けたと言われています。カンパンの恐ろしいほどの技量が、無言のうちに迫ってくるようです。
 壁龕に映る影は、よく見ると二重であることがわかります。光源が二つあることの証しでしょうか。この微かなブレのようなものが彫像に動きを与え、父なる神を人間に近い存在のように感じさせるようです。二重の影はカンパンには しばしば見受けられる表現ですが、画家の生き生きとした意図が見えてくるようです。

 現在のオランダ、ベルギー、北フランスの一部を併せた地域は、15世紀、ネーデルラントと呼ばれていました。その南に、ブリュージュを擁するフランドル伯領と呼ばれる地方があり、ここを中心として発展した絵画芸術が初期フランドル絵画なのです。
 その第一世代の最年長者がロベルト・カンパン(1375/79-1444年)です。彼の革新性は伝承的な主要三作品によって証明されています。それは、「聖母子」「聖ヴェロニカ」、そしてこの「聖三位一体」であり、長い間、所蔵された修道院の名から、「フレマールの画家」と呼ばれていました。カンパンの名は、20世紀初頭になって確定されたのです。
 カンパンの生地は定かでありませんが、1406年ごろ、トゥルネに移住し、1428年にはトゥルネの画家組合長となっています。大きな工房を構え、多くの弟子を輩出し、その中にはロヒール・ファン・デル・ウェイデンもいました。
 さらにカンパンは、画家としてだけでなく、反ブルゴーニュ派コミューンの中心人物として政治的な活躍をしたことも分かっています。コミューンの敗北によって彼の工房は解散し、二度にわたって国外追放処分も受けたという事実からは、西洋美術史に大きな改革をもたらしたカンパンの、意志の強い別の顔がうかがえるようです。
 何より彼は、巨匠ファン・エイクやウェイデンに先行し、現実を忠実に写すことに並々ならぬ情熱を傾けた気鋭の画家だったのです。

 ところで、聖三位一体とは言うまでもなく、父と子と聖霊の三つの位格が一体の神であることを表します。ここでは、十字架から下ろされた死せるキリストを父なる神が背後から支え、聖霊としての鳩がキリストの肩に止まっています。このような表現は、15世紀初頭のフランス中世の後期絵画、フランコ・フラマン派に由来していると言われています。
 父なる神の表情は苦悩に満ちています。脇腹に傷を負った我が子にかける言葉もなく、ただひたすらに彼を支え続けます。ただ、カンパンの作品は、少し後のファン・エイクの完成度には及ばないと言われています。確かにこの体勢では、人ひとりを抱えるには力が入らず、実際には無理があります。しかし、司教服の質感、布地のシワのリアルな立体感には圧倒されるばかりです。今にもパキパキッと音がしそうな鋭い布の重なりや緻密な髭の表現に、神であっても一人の子の父であることの実在感がひしひしと迫ってくるようです。

★★★★★★★
フランクフルト、シュテーデル美術研究所 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎ルネサンス美術館
       石鍋真澄著  小学館(2008/07 出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
         諸川春樹監修   美術出版社 (1997-05-20出版)  



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