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「天国の鍵の授与」

ピエトロ・ペルジーノ (1480-81年)

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 「あなたはペテロ(岩の意味)である。そして、わたしは岩の上にわたしの教会を建てよう。……わたしはあなたに天国の鍵を授ける」(マタイ福音書16:18-19)。キリストの言葉にペテロはひざまずき、鍵を受け取ります。この比喩的な場面は、ルネサンスの多くの芸術家によって繰り返し描かれました。
 交差した鍵は教会の権威の象徴とされ、紋章として頻繁に用いられていました。金と銀の鍵はそれぞれ天国と地獄の門を象徴し、赦免と破門を行う権限を象徴するとも言われます。現在でも、イギリスのいくつかの教区の紋章でもあります。

 キリストの「第一の使徒」と称されるペテロはガリラヤの漁師でした。そして、使徒の中で最も老齢で、十二使徒の統率者であり、キリストに最も親しい者の一人でもあったのです。キリストの死後は最初のキリスト教団を設立し、64年に皇帝ネロの命で磔刑に処されるまで、人間としての苦悩を抱えつつ、自らがキリストの第一の弟子であり続けることを生きる糧とした、まさにペテロ(岩)のような聖人であったのです。

 ところで、この美しいフレスコ画の作者ペルジーノ(1450年ころ-1524年)は、その優雅な様式においてではなく、現代では、盛期ルネサンスの理想を集約したとさえうたわれるラファエロの師であったという点で、より有名な画家なのかもしれません。それは、彼の画風の中のある種のあいまいさ、表現への追求の今一つの甘さにも原因があるのかもしれません。
 しかし、ペルジーノは確かに当時、最も多くの注文を受けた画家でしたし、実際、優美で感傷的な宗教画を数多く残しています。そして、彼の名声を確立したのがこの大作でした。ゆったりとした空間構成、甘美な人物像など、ペルジーノらしさがいかんなく発揮され、その美しい整然とした画面からは画家の揺るぎない充実ぶりと、作品への丁寧な思いが伝わります。
 遠近法の効果を強めるために、格子状に仕切られた教会広場の広角的な眺望は驚くほど厳粛でありながら、そこに集う人々の自由で生き生きとした動きは本当に対照的です。どんな大作を描かせても、そこにほっとするような空気を感じさせるのがペルジーノだったような気がします。

 ところで、キリストが最初の教皇たるペテロにその地位を渡して祝福し、自分の代理人としての権威を認める場面の描かれたこの礼拝堂は、まさにコンクラーヴェ(教皇選挙会議)が行われる場所なのです。ペルジーノは1481~82年ころから、当時の代表的なフィレンツェ画家ボッティチェリやギルランダイオらとともに同礼拝堂の装飾に携わりました。教皇シクストゥス4世からの依頼を、画家はどれほどの喜びをもって受けたことでしょうか。しかし、この作品からは、そうした画家の高揚した気分をひたすら抑えた、厳粛で計算され尽くした知性がすみずみにまで感じられるのです。

★★★★★★★
ヴァティカン宮、システィーナ礼拝堂 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ、宮下規久朗編  日本経済新聞社 (2001-02出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎続 ルネサンス画人伝
       ジョルジョ・ヴァザーリ著、平川祐弘・仙北谷茅戸・小谷年司訳  白水社 (1995-04-10出版) 



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