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「受胎告知」

フィリッポ・リッピ (1442年)

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 書見台の前で、驚きのしぐさと表情を見せる優美なマリアと、百合の花を携えてひざまずく大天使のキリリとした表情が美しく、ここには詩的で清らかな時間が流れています。一方、中央の厳格な柱によって強調された軸線の向かって左側には二人の天使が生き生きと描かれ、馴染み深い受胎告知とは、ちょっと趣の異なる興味深い作品となっています。

 サン・ロレンツォ聖堂は、ルネサンス最初の建築家ブルネレスキによって建設され、その翼廊にあるマルテッリ礼拝堂に描かれているのがこの祭壇画です。気持ちよいほど明快な遠近法による空間の中で、光と陰が建物や人物の明確な輪郭を形づくっています。それはまるで小刀でカットしたようにくっきりと端正であり、殊に、左手前の天使の後ろ姿が見せる襞の美しさは、赤とグレーのコントラストとともに強く印象づけられるのです。
 建築物や人物、木々や草花など自然物の要素の調和、量感は、すべてが15世紀中部イタリアのルネサンス様式の特徴です。さらに、いかにも線的で装飾的なモチーフは、フィレンツェ絵画の発展において最も重要な画家であったフィリッポ・リッピならではのものと言えるのです。ただ、この作品にネーデルラント絵画の影響を指摘する研究者もいます。それは、画家がフランドル旅行で得た繊細で表現力豊かな写実主義のゆえだったのでしょう。

 フィリッポ・リッピ(1406-1469年)はカルメル会修道院の修道僧であり、画家として世に出たのは1430年代初め、修道院のフレスコ画制作からでした。以来、パドヴァやフランドルへの旅行によって芸術的な広がりを見せ、やがて彼の作品はフィレンツェ絵画の基準とさえ言われるようになりました。リッピは「天使僧」と呼ばれたフラ・アンジェリコとともに15世紀前半のフィレンツェ絵画を支え、流麗な描線によって祭礼のように華麗で、それでいてこの上なく清らかな画面を実現したのです。
 「受胎告知」は、中世の聖母信仰のなかでも特に人気のある主題でした。それがルネサンスに入ると、さらに祝祭的な雰囲気が加わり、リッピ作品にも見られるような美しく個性的な作品も現れてくるのです。

★★★★★★★
フィレンツェ、 サン・ロレンツォ聖堂蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)



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