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「ロベール・ダンジューに王冠を授けるトゥールーズの聖ルイ」 

シモーネ・マルティーニ (1317年)

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     <この作品のプレデッラ部分>

 この峻厳で美しい肖像画は、まっすぐにこちらを見つめる威厳と、醸し出される温かさから、その主人公の人となりの美しさを伝えるみごとな作品として知られています。
 殊に、顔と手の繊細で的確な輪郭線は画家の高い技量を物語るもので、身体を包むマントの柔らかい動きには不思議な軽量感があり、見る者に風さえ感じさせるのです。

 トゥールーズの聖ルイ(1274-1287年)は、ナポリ王シャルル2世(1248-1309年)の第2子で、ナポリ王相続権を弟のロベールに譲り、フランシスコ修道会に入った人物です。若くしてトゥールーズ司教に任ぜられましたが、わずか23歳で早世し、その年に聖列されています。
 この作品はまさに、弟のロベール・ダンジューに王冠を授ける聖ルイの姿を象徴的に描いた、250×188㎝の大作です。この板絵が制作されたとき、すでに聖ルイは鬼籍の人であったわけで、注文主はロベール自身でした。自らの王権取得の正統性を主張するために、シモーネ・マルティーニに制作の依頼をしたのだと思われます。
 若々しい面差しでまっすぐにこちらを見つめる司教姿の聖ルイの、マントの縁飾りには百合の紋章が金糸で刺繍されているのがわかります。板絵の枠の周りにも金メッキされた同じ装飾があり、聖ルイがフランス王家と近親関係にあることを示しています。さらに、手にした笏杖は国王の標徴の一つであり、天使たちが彼の頭上にかかげている冠とともに、彼が世俗の王権を放棄した者であることを暗示しているのです。弟とはいえ、ひざまずいたロベールよりもずっと大きく描かれた聖ルイは、真の意味での王であったということなのでしょう。

 シモーネ・マルティーニ(1284-1344年)は、その画面の優美さ、叙情性から、宮廷に非常に人気のあった画家で、国際ゴシック様式の創始者と言われています。1317年、シモーネはナポリのアンジュー家の宮廷に招かれ、この作品に着手しています。その繊細で洗練された新しい様式は、それまでの絵画が持っていた堅さを一気に飛び越えたような鮮烈な印象を人々に与えたに違いありません。
 ところで、この板絵にはプレデッラ(裾絵)が添えられています。プレデッラとは、大型の祭壇画、多翼祭壇画の下部にある複数の小さな絵のことをいいますが、たいていの場合、上の大きなパネルに描かれている聖人の生涯にまつわる説話が描き込まれています。
 ここでは、もちろん聖ルイに関する逸話が並んでいます。左から、「教皇ボニファティウス8世の前で修道士となる誓いを立てる聖ルイ」、「アラチェリの修道院を去り、トゥールーズの司教に任命される聖ルイ」、「貧しい人々に食事を供する聖ルイ」、「聖ルイの死」、「子供を蘇生させる聖ルイ」の5枚で、聖ルイの、短いけれど信仰と慈愛に満ちた生涯が丁寧に描かれています。その物語的で写実的な手堅い手法には、すでに初期の遠近法が示されているのです。

★★★★★★★
ナポリ、 カポディモンテ国立美術館蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎キリスト教美術図典
       柳宗玄・中森義宗編  吉川弘文館 (1990-09-01出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ、宮下規久朗編  日本経済新聞社 (2001-02出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)



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