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「ヘレネの誘拐」

グイド・レーニ (1631年)

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 有名なトロイア戦争の発端となった、ヘレネ誘拐の場面です。
 ヘレネはギリシア神話のレダと主神ユピテル(ゼウス)の娘で、スパルタ王メネラオスの妃であり、絶世の美女でした。トロイアの王子パリスは、そのヘレネに恋をし、夫の不在中、力ずくで彼女を海路トロイアへ連れ去りました。ギリシア人たちはこれをきっかけに、トロイアへの遠征を開始するのです。
 しかし、何と優雅な誘拐場面でしょう。本来ならば、パリスは抵抗するヘレネを腕にかかえ、彼の仲間たちは剣を抜いてギリシア人たちを退けているところなのですが、17世紀ボローニャ派の巨匠グイド・レーニ(1575-1642年)の描く「ヘレネの誘拐」は、まるでピクニックへでも出かける途上のようです。パリスに手を取られ、足取り軽いヘレネと侍女たち。いたずら好きのクピドはチラッとこちらに目配せするなど、遊び心に満ちています。帆船の浮かぶ海、空の青さも何と美しいことでしょう。随行する動物たちも幸せそうです。

 レーニはイタリア・バロックを代表する古典主義の画家として知られていますが、美術史上、最も優美な画風を持った画家と言われており、ラファエロに見られるような洗練された様式を徹底して探求し続けました。そして、典型的な古典主義の巨匠として、18世紀に至るまで愛され続けたのです。
 彼はボローニャとローマを行き来して、双方の地で制作に励みましたが、二度目のローマ滞在時、徹底的に古代を研究し、古代美術をより華麗に、純粋に、優雅に表現する試みに挑戦しています。古典性への回帰こそ、レーニの目指す究極の絵画だったのかもしれません。その成果が、こうした優雅な線描表現、統一された色彩という、豊かで完璧と言ってよい表現技法へと昇華されていったのでしょう。

 それにしても、この作品のヘレネの、何と美しいことでしょう。高貴な、侵しがたい女性像を描かせたら右に出る者のいないレーニの、面目躍如といったところかもしれません。レーニの描くマグダラのマリアを見て、「なんと美しいことか。見なければよかったほどだ。まさに天国の絵だ」と叫んだ、彫刻家ジャンロレンツォ・ベルニーニ(1598-1680年)の言葉が、素直にうなずける思いです。 

★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈2〉神話編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版) 



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