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「ピエタ」

ミケランジェロ・ブオナルローティ (1498-99年)

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 私たちは今まで、これほどまでに美しく静けさに満ちた女性を見たことがあったでしょうか。彼女はこの世の中でただ一人選ばれ、神の恵みとそれに対する彼女の信仰とによって聖なる子を産み、育て、深い悲しみの中で人間としての我が子を失ったのです。彼女は「ただの人」でした。一介の貧しい少女が、謙虚で積極的な受容と信頼をもって信仰を貫いた姿がここにあります。私たちは、この像を目にするたび、何に信頼し、何を受容するのか…その問いを、物言わぬ彼女自身から問いかけられているような気がしてしまうのです。

 それにしても、聖母の衣装のドレープ一つ一つの素晴らしさには目を奪われます。柔らかさ、光沢…いったい、あの硬い大理石のどこをどうしたら、このような表情、風合いが得られるのでしょうか。もちろん、大理石という御しがたい物質から真実の肉体を「解放する」ことを目的とし続けたミケランジェロだからこそ、この魔法のようなピエタが生み出されたことは言うまでもありません。ミケランジェロにとって、肉体は現世における魂の牢獄でした。そして、この肉体と魂の二元性が、彼の創る像に限りない悲哀感を与えるのです。

 「ピエタ」とは、十字架から降ろされた我が子に聖母が別れを告げる場面ですが、この美しいマリアは大げさな身振りや嘆きの表情を見せることなく、内に秘めたたくさんの感情に、静かに身をゆだねているようです。すでに息絶え、横たわる我が子を膝に抱きながら、それでもそっと彼女は語りかけているのかも知れません。お帰りなさい、今だけは私の子ですね…と。

 ある人に、この聖母の美しさは、死せるキリストの母としては若すぎるのではないかと言われ、
「罪ある人間は歳をとるが、無原罪の聖母は常人のようには歳をとらないのだ」
とミケランジェロは反論したそうです。
 そんな逸話を聞くにつけ、彼のとても真摯で不器用な、マリアへの敬慕の念を感じてしまうのです。 

★★★★★★★
ヴァティカン、 サン・ピエトロ大聖堂 蔵



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