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「カナの婚宴」

ジョット (1305-1310年ころ)

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 堅牢な造形と揺るぎない迫力に、圧倒的なジョットの力を実感させられる作品です。背後の壁に落ちかかる影の精妙さ、ごく自然な奥行き、人物の確かな肉づきと迷いのない輪郭線、そして、右前景の甕は単純でありながら、手を触れればその形を確認できそうな強靱さと量感をもった存在として描かれています。ここには、何の矛盾も迷いもありません。ただジョット芸術の偉大さ、この上ない堅固な構成が存在するばかりです。
 この作品のテーマ、「カナの婚宴」という、キリストが人前でしめした最初の奇跡は、ヨハネの福音書のみに記されています。

 ガリラヤのカナという村で行われた婚礼の席には、イエスをはじめ聖母マリア、そして幾人かの使徒たちも客人として招かれていました。ところが、めでたい婚宴の最中、葡萄酒が底をついてしまったのです。そこでイエスはその母の求めに応じ、6つの石甕に水を満たすようにと命じます。そして祝宴の主人が言われるままにその水を飲んでみると、すでに水は極上の葡萄酒に変わっていたのです。
 甕の前で葡萄酒を飲んでいる太った人物がこの家の主人でしょうか。中央の花嫁、花婿、それにおそらく聖母マリアも驚きに打たれ、主人を見つめています。夢のような奇跡ですし、聖書やお話として読んだときに、私たちは決して現実のものとは違う、遠い物語としてしか受け取ることはないかも知れません。しかし、ジョットの持つ確かな技量で描き出されたこの場面には、非常に人間的な体温と血の暖かさが存在します。ですから私たちは、キリストが示したこの奇跡をとても身近な幸福と感じ、ごく自然に受け入れることができるのです。
 14世紀の初めにジョットが描いたこのフレスコ画以上に説得力を持った「カナの婚宴」を、もしかすると私たちは知らないかも知れません。ここには、確かに生きた人間たちが同じ生身を持つイエスと共に在った証しが、非常にシンプルに、説得力をもって表現されているのです。

 北イタリアのパドヴァに住んでいたエンリコ・スクロヴェーニという高利貸しは、自らの仕事の罪深さへの贖罪から、この地に個人のものとしてはとても大規模な礼拝堂を建立し、その内部装飾を手掛けたのがジョットでした。青を基調とした美しい作品の並んだ堂内のみごとさは、今でも人々を魅了してやみません。聖母とキリストの聖なる物語に満たされたこのスクロヴェーニ礼拝堂は、今でも14世紀における最高の壁画芸術とジョットの精神を擁して、ひっそりとたたずんでいるのです。

★★★★★★★
パドヴァ、 スクロヴェーニ礼拝堂 壁面、身廊北壁中段 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎ありがとうジョット―イタリア美術への旅
        石鍋真澄 著  吉川弘文館 (1994-05-10出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
         諸川春樹監修   美術出版社 (1997-05-20出版) 



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