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「七本指の自画像」

マルク・シャガール (1912-13年)

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 シャガールには、自分がこんなふうに見えるのでしょうか。上目使いの鋭い目、尖った鼻、そして何よりも目をひくのは7本の指です。キュビスムふうに怪異に描かれた風貌でイーゼルの前に立つシャガールは、すでに自らの幻想世界の住人になってしまっているようです。

 パリに出て明るい色彩に目ざめたシャガールでしたが、望郷の念は捨てがたく彼の中に生き続けたようです。左上には現実のパリの風景を窓のように描きながら、右上には故郷ヴィテブスクを描いて、写実的要素とともに幻想的要素も取り入れた、世にも奇妙な自画像を完成させたのです。
 この作品について彼は、
「わたしはそのとき充実していた。たしか一週間で描き上げたはずだ。わたしは立体派の構成に影響されてはいたが、それが先立つ自分のインスピレーションをいつわるようなことはしなかった。なぜ7本指なのか?別の構成、写実的要素とならんでファンタスティックな要素を入れるためである。不協和音が心理的効果を添える」
と説明しています。
 7本の指がファンタスティックな要素だなんて、納得しにくい気もするのですが、この絵の中に散りばめられた色彩の暖かさを見ているうちに、ふと、これはシャガール自身の非現実世界というよりは、内的真実の世界そのものなのかも知れないという気がしてきます。

 イーゼルに架かっている絵も『ロシアとろばとその他のものに』という、美しい幻想世界を描きかけたもので、乳を飲ませるロバの後ろの浮遊した人物の首がポーンと後ろに飛んでしまった、これまた不思議でありながら、ロバの赤い色が美しい作品です。もしかすると、シャガールにとっては、写実的要素に幻想的要素を入れることが真の目的なのではなく、幻想的要素こそ何よりも一番大切だったのかも知れません。この自画像は、現実の似姿よりも数倍深い真実味をもって、見る者に迫ってきます。
 シャガールは精神的世界を完全な抽象や観念で表現せず、あくまでも具体的な色彩やマティエールを通して示そうとした画家であり、その徹底した姿勢にはいつも圧倒されるばかりです。

★★★★★★★
アムステルダム市立美術館蔵



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