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「フランス王妃マリー・ド・メディシスのマルセイユ上陸」

ペーテル・パウル・リューベンス (1622-23年)

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 リューベンスのダイナミックで劇的な画法は、おもに教会や宮殿を飾りましたが、そのなかでもおそらく最も有名なものが、フィレンツェ生まれの皇太后マリー・ド・メディシスの生涯をたたえる一連の作品であると思われます。1612年の年末、リューベンスは前年、パリに完成したリュクサンブール宮殿に、ルイ13世の母である皇太后の生涯を壁画にしてほしいとの注文を受けるのです。全部で21図から成る大壁画は1625年2月までに全て引き渡されましたが、この作品はその一挿話、年若い王妃のマルセイユ上陸を描いたものです。

 実際には、特別に劇的な場面ではなかったはずです。それなのに、リューベンスの独創的才能のすべてが注ぎ込まれたようなこの作品のドラマチックな効果といったら…。天も海も大地も、光と色彩に輝き、王妃の無事な到着を祝っています。名声の女神ファーマは天高く舞い上がり、ニ本のラッパを吹き鳴らします。そして海神ポセイドンとその人魚たちも、海面にまで姿を現し、王妃に謁見すべく集まっています。ここは、あらゆるものが合流し、運動と感情、天と地それぞれが一体となった世界なのです。リューベンスの手から放たれたエネルギーは形から形へと飛び回り、烈風のごとく画面を吹き過ぎて、渦巻く動きの中に結集されてゆきます。そして、この作品を鑑賞する私たちは、この偉大な絵に出逢えてしまったことを本当に幸運だと感じるのです。ここには、夫アンリ4世が狂信的カトリック僧によって暗殺された後、息子のルイ13世の摂政となり、リュクサンブール宮殿を造営して、夫とは違う王権のイメージを生み出したみごとな王妃マリー・ド・メディシスの姿が威厳に満ち、美しく表現されているのです。

 リューベンスは、画家であり、デザイナーであり、学者であり、もちろん外交官でもあり、英国王チャールズ1世にナイトの称号を与えられた、人生においてまったく翳りのない、他に類を見ないほどに成功をおさめた人物です。初期の修行時代にはイタリアのマントヴァのゴンザーガ家に仕え、ミケランジェロとカラヴァッジオを研究し、ティツィアーノやヴェロネーゼからはヴェネツィア派の豊かな色彩を学び、当時の、おそらく最高の画家たちの影響を受けつつ、北ヨーロッパ随一の画家となっていきます。
 しかし一方、当時、各国の王室や貴族たちとの接触の多かったリューベンスの立場は、当代きっての画家ということもあり、秘密裡の交渉には非常に都合の良いものでもありました。そこで大公妃イサベラは彼を信頼し、外交上の重大な任務をしばしば任せることがありました。祖国を愛し、敬虔なカトリック信者だったリューベンスは、人々の幸福と平穏な生活を望み、喜んで和平工作に尽力していきました。そんな気概に燃える彼だからこそ、こうした高揚感に満ちた大作はもっとも得意とするところだったに違いありません。

★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-05-20出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈2〉神話編
        諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版) 



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