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「アマゾンの闘い」

ペーテル・パウル・リューベンス (1618年ころ)

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 アマゾネス…といえば、誰もが知っている女性戦士たちです。アマゾンの国はギリシアの北方にあったと言われていますが、ここにギリシア軍が侵攻し、女王タレストリスに率いられたアマゾンたちはその仕返しにギリシアに攻め入り、そこでテセウスの軍に敗れた…というヘシオドスの『歴史』の中の挿話がダイナミックに描き出されています。

 橋の上を左から右へ進むギリシア軍….河岸に追いつめられ、屍となって橋の下に転落し、水流にのまれていくアマゾンたち…。この橋上と橋下のうねるような複雑な動きはいかにもリューベンスのものらしく、燃え上がるような馬のたてがみ、不吉きわまりない空の色など、見ている者はこの物語の世界にぐんぐん引き込まれ、その喧騒、うめき声、叫び声、乱れた蹄の音まで、はっきりと聞こえてきてしまうのです。
 男と女の生と死のドラマは、いかにも恐ろしく、そして無残です。しかし、リューベンスの手にかかると、おぞましい現実感は遠のいて、そこには溢れるような生命感、あらゆるものに神が宿るという汎神論的な、両手をいっぱいに広げたような生命のリズムに満たされてしまうのです。

 リューベンスの作品には圧倒的に壮麗な大作が多く、ときには腕が空を切るような…と表現されてしまうような大仰ささえ指摘されてきました。しかし、リューベンスの作品の多くが聖堂や宮殿や貴族の城館の、いわば公的な場において、その場にふさわしい雰囲気を盛り上げることを予期して制作されたものであることを私たちは忘れてはならないのです。
 バロック芸術は、ボードレールに言わせれば「通俗性の泉」であり、そういう意味でリューベンスは、完璧に調和のとれた、誰にでも理解できる美しさを描いたという点で、その筆頭であったかも知れません。しかし、彼ほどの優美さ、豊かさをもって「通俗性」を表現した画家が他にいたでしょうか。リューベンスが通俗性を含みながらも夢幻の世界への扉を絶えず私たちに示し続けてくれていることは、まったく奇跡としか言いようがありません。

 ボローニャの画家グィド・レーニは彼の絵を見たとき、そのあまりの生命感に、「この画家は絵の具に血を混ぜているのか?」と言ったそうです。わかりやすさを通俗的と言うなら、リューベンスはその通俗性を、甘美で崇高な世界にまで易々と引き上げてしまった天才であったのだと思います。

★★★★★★★
ミュンヘン バイエルン国立絵画収集 アルテ・ピナコテーク蔵



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