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「長い頸の聖母」

パルミジアニーノ (1535年)

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 一見すると美しいけれど、実は非常に不思議な聖母子です。
 白鳥の頸のようにくねりながら伸びたマリアの首に、その下の身体の部分も何やらやたらに縦の線の長さが強調されて、その膝に抱かれた幼な児イエスもまた、引き伸ばされた不自然に長い姿で眠っています。また、左側に居並ぶ天使たちも、天使にしては大人っぽいプロポーションで、ちょっと、かわいい・・という表現には当たらないようです。

 この引き延ばしやねじれはマニエリスム期の顕著な特徴と言われていて、マニエリスムというのは、盛期ルネサンス後の芸術動向を指す言葉なのです。その様式的特徴としては、人体の自然な比例を逸脱した極端な長身化や極端なねじれのポーズ、冷たくて鮮やかな色調と誇張した短縮法や遠近法、合理的でない、ちょっと不思議な空間表現・・などですが、この作品はまさしくその特徴に合致する、マニエリスムが生んだ名花・・という感じがします。

 聖母の後ろには円柱(コロン)が建ち、その向こうには古代ギリシャの世界と思われる空が拡がっています。しかし、銀灰色の照りや靄に包まれた空はあまりにも不吉で暗く、聖母子像と呼ぶには不安な雰囲気が漂い過ぎているような気もします。また、円柱も、普通ならば自然の中にのびのびと置かれているものなのに、ここでは室内空間の中で威容を誇り、マリア自身はと言えば、息が詰まりそうな密室で、眠れるわが子に・・というよりは、自らの美しさに陶酔するかのように、どこか冷たく神秘的に微笑んでいます。

 この極度に洗練された画面は、閉鎖的な宮廷社会や教養人社会で特に喜ばれた「芸術のための芸術」としての存在価値を十分に発揮しており、この時代、画家たちがあくまでも固有の美を生み出すことに苦心していたことが感じられます。
 左側で聖ヨハネがかかげている壺は聖母の象徴ですが、それさえも奇妙な長いふくらみをもって、私たちを当惑させてくれます。マニエリスムの時代が生んだ、どこか異世界の住人めいたマリアとイエスかも知れません。  

★★★★★★★
フィレンツェ ウフィッツィ美術館蔵



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